学部長あいさつ

立川先生顔写真 工学とは、科学的知見をもとに我々の生活の利便性を高め、より安全で健康な質の高い社会を構築する技術を追求する学術です。構造物や機械、エレクトロニクス、新物質・先端材料などの「ものづくり」や、構造物や機械のシステム制御、情報とコンピュータ、エネルギーの生成、地球環境や宇宙、生命や生体等に関する技術開発が工学の主要な分野です。ものづくりだけでなく、環境にやさしく災害に強い「まちづくり」に関する技術開発も工学の対象分野です。工学は、最先端の科学技術を追求するとともに、人の心や社会性、経済性、効率性を重視して、科学技術を社会に役立てることを目的とします。持続可能な社会を実現するための科学技術を対象とする工学は、実に多様です。

 桂キャンパスにある桂図書館では、最新の研究シーズを集めた「桂の庭」という研究カタログを作成し、ホームページで紹介しています。その中から、地球温暖化に関する課題解決を例として、京都大学の工学研究科で行われている研究を紹介します。

  • 脱炭素社会の実現を目指す地球温暖化対策や水災害リスクの最小化に関する研究:温室効果ガス排出ゼロといった目標を達成するための削減シナリオや投資に関する研究、気候変動下での水害リスク評価や被害を最小化する適応技術の開発
  • 再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの生成に関する研究:エネルギーの効率利用と二酸化炭素排出量の大幅削減を実現する燃料電池の性能向上に関する技術開発、水から水素を製造する新たな技術開発やアンモニアから水素製造を実現する触媒の開発、バイオマスの科学エネルギーを電気エネルギーに変換する技術開発
  • エネルギーシステムの分析と制御や持続可能な資源の利用に関する研究:数理科学と実社会をデータで繋ぎエネルギーの安定供給を実現する技術開発、水資源の持続的な利用や地熱エネルギーの活用に関する技術開発

 地球温暖化に対処するための緩和策(温室効果ガスの排出量を削減する対策)と適応策(気候変動の影響を軽減する対策)に寄与する様々な技術開発が、工学研究科の幅広い分野で進められています。これらの例のように、工学は目の前の課題に対処し、人や地球社会に役立つ技術開発を目的とします。つまり工学は応用を目的とする実学です。同時にその技術開発を支える科学研究、つまり基礎研究も工学の欠かせない要素です。基礎研究は物質の性質や運動に関する自然の原理を解明し、それを説明する新たな考え方や理論を構築しようとする研究活動です。それは自然の原理を理解したいという好奇心が動機となって行われるものであり、どのように応用できるか、研究当初はわかっていない場合が多いと思われます。こうした多様な基礎研究の成果があって初めて幅広い技術への応用が可能となります。一方で、応用研究を進める中で新たな発見があり基礎研究へと進むこともあるでしょう。京都大学工学部・工学研究科は、「学問の基礎や原理を重視」し、「自然環境と調和のとれた科学技術の発展を図る」ことを理念として、基礎と応用を共に重視した研究を行っています。京都大学工学部で学ぶ皆さんは、自身の専門分野や関連する自然科学に関する勉学はもとより、人文学や社会科学にも関心を広げて、豊かな教養を育むことが大切です。それによって、皆さんが学ぶ工学が、他の多くの分野と関連しながら社会と繋がっていることを理解することができ、より深く専門分野を学ぶことができるでしょう。

 京都大学工学部には、地球工学科、建築学科、物理工学科、電気電子工学科、情報学科、理工化学科の6つの学科があります。1回生と2回生では、各学科に共通する全学共通科目とよばれる一般教養科目や英語などの外国語科目、理系全般に共通の基礎科目を主として履修します。それぞれの学科やコース特有の専門科目も1回生から提供され、学年の進行とともにその専門性が増していきます。4回生になると研究室に配属され、特別研究(卒業研究)に一人ひとりが取り組みます。特別研究では、研究室の教員や大学院生と共に最先端の研究に取り組み、自ら課題を見つけ対話を通じて課題解決に挑みます。この取り組みを通じて研究のプロセスを実体験し、研究する力を身につけます。

 工学部ホームページには、「京大工学への第一歩」というコーナーがあり、そこでは工学部の教員や学生の皆さんが工学部の魅力や日常の生活を紹介しています。また、各学科で行っている教育や研究の内容をホームページで詳しく紹介しています。「京都大学工学部」という案内冊子にも各学科の詳しい内容を記載しています。これらが京都大学工学部を知るための手引きとなれば幸いです。工学部で学ぶ皆さんは、それらを参照して学修に役立ててください。

 京都大学工学部で学ぶ皆さんは、工学部での学びを通じて自らが挑戦すべきことを見出してほしいと思います。それを追い求め努力することによって、皆さんの輝きはより一層増すことでしょう。我々はそのためのサポートを惜しみません。