大学在職中に感じたこと

小野 紘一

国立大学が独立法人化され、今後大学は社会に対して門戸をさらに広く開き、大学の活動をより活発にし、優秀な人材を世に送り出し、より実りある成果を挙げてこれらを社会に還元し、今で以上に国民や地域住民に貢献しなければならなくなった。

最近のわが国の大学について、学生の資質や学力の低下、人材・逸材の不足、不十分な教育方法と教育者の資質、大学の閉鎖性と組織の硬直化、不十分な社会への還元と社会や企業との連携、教育・研究費の不足、不十分な教育施設や教育環境、文化や地域との連携不足、国際化への立ち遅れ、知的財産の逸散や活用不足など様々な事柄が指摘されている。したがって、これからの大学は、これら現状の諸問題を真摯に受け止め、必要とされる改善・改革を直ちに実施すると共に、新しい改革・改善案を立案し、これらを実践に移していかなければいけない。教官としての京都大学での期間は比較的短く、大学のことを十分には理解しないまま、退職を迎えてしまった。見当はずれや既に行われているものもあろうが、大学在職中に、次のようなことを感じた。

1. 教育に関して

  • 現状の問題点の発掘と対応
  • 教育手法の相互情報交換
  • 学生意見の参照
  • 講義内容のリニューアル
  • 新入生向け少人数セミナーの拡充と個人指導の充実
  • TAの積極導入による演習や実験実習の強化
  • E-mailによるレポート提出やWebsiteの充実による学生との対話の強化
  • 少人数コミュニケーション英語クラスの充実や英語による講義の推進
  • TOEIC受験の制度化と院入試や就職活動への反映
  • 文化、歴史遺産、伝統工芸などの理解と保存・修復などの教育
  • 学生のインターンシップやフィールドワークの拡充強化
  • リーダーシップや国際性を伸ばす教育

2. 研究や経営に関して

  • 個々の意見や提案の尊重とトップダウン形式の組織
  • 教員の兼業・兼職の推進
  • 外部資金の戦略的獲得
  • 産学、産官学の連携の推進と資金の導入
  • 学内各部門の融合や他大学との連携
  • 学内シーズや設備の企業への開放と共同研究の推進
  • 企業のニーズやアイデアの掌握と実用化への支援、企業相談への門戸開放
  • 学外プロジェクトへの積極的参画やプロジェクトの提案
  • 知的財産部門の強化と特許取得の推進
  • 外部資金獲得部門の強化と外部資金情報の提供、応募の積極化、応募のシステム化
  • 学外への講義、講演の提供や小中高校などとの教育的交流の推進
  • 文化遺産の維持・修復や地震や火災などの災害対策活動への参画
  • 文化的事業、環境保全・環境創造、住民の豊かな生活環境の創出などへの参画

3. 学生への対応

  • 福利厚生、クラブ・サークル活動、生活等相談、奨学金、留学などの内容強化
  • 就職相談と就職斡旋の拡充強化
  • インターンシップの推進

4. 国際交流の拡充

  • 留学生受け入れ支援や海外との共同研究などの国際交流の推進
  • 国際間大学ネットワークの拡充強化
  • 学生の海外留学や海外研修支援の強化
  • 独立行政法人国際交流基金などへの積極的対応

5. 大学のPRや学内外交流

  • Web Site の充実――大学の全般、シーズ、連携研究などの情報開示
  • @News の活用――学生との情報ネットワークの充実

6. 建設業の海外対応について

日本はとくに第2次大戦後、欧米に追いつけ追い越せと国民が一体となって頑張ってきたお蔭で今日の発展と世界における先進国の位置を享受できている。この間、技術の研鑽と研究開発を基づき建設業が果たした役割も大きく。しかしながら、最近の日本の建設業は元気が無く、有能で経験豊かな人材をリストラで放出し、不況の波に押し流されているようである。なぜこんなことになってしまったのだろうか。日本の建設業は国内依存度が極めて高く、また有り余るプロジェクトのお蔭で国内だけでも十分に食っていけた。また、海外工事もODAなど資金の出所は日本からというケースが大半であった。したがって、国内プロジェクトの発注が減ると、建設関連企業はたちまち苦境に陥り、また、ODAなどの減少が、これに輪をかけている。しかし、世界にはまだまだしなければならないプロジェクトが山積みされており、とくにヨーロッパのゼネコンは海外工事の受注を着実に増やしている。日本の建設業も今一度息を吹き返さなければいけない。このためには、もっと積極的に海外建設市場に参画すべきである。

海外市場へ参入し成功を収めるためには、

  1. 大使館等の協力による迅速で質の高い情報の収集
  2. 豊富な資金と有能な人材による現地基地の構築
  3. リスク分担できる企業との合弁と技術およびビジネス情報の交換共有
  4. 現地企業との協同と技術の伝承
  5. 有力かつ益率の高いプロジェクトへの集中。
  6. 顧客の幅広い要求への対応と顧客との親密な友好関係の樹立。
  7. 職員の契約管理、危機管理、変更要求などのマネジメント技術の強化
  8. コストの削減
  9. 研究開発の促進
  10. 国際貢献の促進と現地文化の理解
  11. BOTなどの新しいビジネスモデルの採用
  12. 環境、エネルギー、社会開発、情報インフラ、国際的大プロジェクト、メガシテイ・インフラなどの将来性のある分野への対応

など、様々なことが必要であろう。

日本は、世界に先駆け数々の先駆的プロジェクトを成功させてきており、今日も日本の建設技術は世界のトップにある。世界は日本の技術を期待している。しかしながら、情報のグローバリゼーション化がなされた今日においても、英語による情報発信が少なく、世界は日本の建設技術情報を捉えかねている。これからの日本にとくに要求されることは、

  1. インターネットや国際会議などをもっと活用して、世界に日本の技術を認知させる。
  2. BOTなどの新しいビジネスモデルの推進や有力情報の収集などに、政府、とくに外務省や銀行の強力な支援を獲得する。
  3. 世界のニーズを先取りした先駆的技術開発を推進する。
  4. 公団、ゼネコン、コンサル、メーカ、商社などによるコンソーシアムを形成し、海外市場に参入する。

など、官民一体となった対応が必要であろう。

7.大学の対応

これからの海外ビジネスを支える人材の育成に関し、大学では、

  1. 先端専門知識や技術の習得
  2. 将来展望能力の育成
  3. 研究開発の企画推進能力の育成
  4. 先端技術情報収集の技術と能力の育成
  5. 英語によるコミュニケーション能力の強化
  6. マネジメントや交渉能力の育成
  7. 技術伝承能力の育成

などの教育が必要と思われる。

おわりに

大学の改革・改善には終わりはない。常に検討・改善・改革をしなければいけない。様々な課題が出てくるであろうが、学生の教育と研究を中心に、総長をはじめ学内の教員、事務が一体となって、さらに頑張っていって頂きたい。

京都大学における9年間の職務を無事終えることができましたのは、恩師、先輩、同期や仲間、様々な友人、後輩、様々な企業等の後押しのお陰と感謝しております。この9年間に教育がいかに重要であるかということを学ばせて頂きました。

今後は体力の続くかぎり、若者への教育、社会への還元、国際貢献などを目指して頑張っていく所存です。皆様方のよりいっそうのご指導、ご鞭撻、ご支援と変わらぬご親交をお願いいたします。

(名誉教授 元都市環境工学専攻)