マレーシア、中国との拠点大学交流

武田 信生

工学研究科では日本学術振興会(JSPS)の支援を得て、2000年度からマレーシアと、2001年度から中国と、それぞれ10年間継続の予定で拠点大学交流(実施組織代表者;荒木光彦工学研究科長)を実施している。この事業の中では、(1) 知見・情報の交換の場であるセミナー、(2) 相手方研究者との討論や共同研究打合せのための研究者交流、(3) 事業の円滑な推進のためのコーディネータミーティングおよび(4) 関連図書を提供する学術情報提供を行っている。本稿ではこれらの交流事業を紹介するとともに、その課題や将来への展望を述べてみたい。

1. マレーシアとの交流事業―「環境科学」

マレーシアとの交流事業日本側拠点校を京都大学とし、マレーシア側拠点校をマラヤ大学とする環境科学交流事業は、豊かな自然の中に人間の生活圏を確保し、持続可能なゼロディスチャージ・ゼロエミッション社会を構築するために何が求められるかを考え、その手段と可能性を検討することを目的として2000年度から開始された。日本側協力大学は27大学を数え、マレーシア側協力大学には9大学が名を連ねている。現在、京都大学では津野洋教授が、マラヤ大学ではProf. Alias Daudがコーディネータを務め、10の研究課題について事業を実施している。研究課題を列挙すると、(1) 環境倫理・法律・経済に関する研究、(2) 水環境計画に関する研究、(3) 環境計画に関する研究、(4) 環境リスク管理に関する研究、(5) 水質・水量の管理と処理技術、(6) ゼロディスチャージシステムを構築する基礎技術群―廃棄物・焼却―、(7) 異なった気候下における都市構造と二酸化炭素及び大気汚染物質の排出との関わりに関する研究、(8) ゼロディスチャージシステムを構築する基礎技術群―地盤環境と生態系関連―、(9) ゼロディスチャージシステムを構築する基礎技術群―天然資源とエネルギー運用―、(10) ゼロディスチャージシステムを構築する基礎技術群―暑熱地域における環境共生建築技術の構築―である。これらの課題に応じてグループを形成して活動を行っている。研究者交流では毎年20人程度が各々6日間程度日本からマレーシアへ派遣され、また同程度の人数が各々10日間程度マレーシアから来日して、研究活動を行っている。セミナーは2001年度より、毎年1~3グループ共同で2~3件ずつ、マレーシアあるいは日本で開催している。また、2003年12月には全グループの代表者等が参加し「包括セミナー」を開催し、これによって事業の成果・問題点を確認し、新たな研究展開を進めるようになった。その他、少人数セミナー、マレーシアの学生を博士後期課程へ受け入れることやマレーシアの大学で博士後期課程学生の副指導教授を務める例もみられている。2004年度には中間評価を受け、今後は、確立された研究者ネットワークを活用した、より具体的な活動が期待されている。また、マレーシアの研究者の論博コースへの受け入れも熱望されているところである。

2. 中国との交流事業―「都市環境の管理と制御」

中国との交流事業

日本側拠点校を京都大学とし、中国側拠点校を清華大学とする都市環境交流事業は、単に公害問題を解決するだけでなく、人の行動規範として省資源・省エネルギーの立場がより強く意識され、自然との共生を図りうる資源循環型社会の構築を目的として2001年度から開始された。日本側協力大学は29大学を数え、中国側協力大学には7大学が名を連ねている。現在、京都大学では武田信生教授が、清華大学では吉明教授(Prof. HAO Jiming)がコーディネータを務め、4つの研究グループで事業を実施している。4つのグループは、(G-1) 都市水環境制御・管理に関する研究、(G-2) 大気汚染制御・管理に関する研究、(G-3) 廃棄物制御管理と資源化に関する研究、(G-4) 都市基盤施設(インフラストラクチャー)の管理・制御に関する研究、である。

G-1とG-4が合同で、またG-2とG-3が合同で毎年1回、セミナーを開催している。セミナーは中国で1回、日本で1回開催することを原則としており、各グループの研究者は2年に1回は相手国で開催されるセミナーに参加することになる。セミナーでは両国の研究者から平均30件程度の研究発表があり、参加者は50名内外である。当初は相手国研究者の研究分野や関心事を知ることに重点が置かれていたが、現在では、共同研究テーマに昇華していくことが重要であると認識されている。研究者交流では毎年10名程度が各々数日間程度日本から中国へ派遣され、また、30名程度が各々10日間程度中国から来日して研究活動を行っている。これらの交流の中では小規模セミナーを開催したり、研究者同士の討論を行うことのほか、互いの国の環境条件や技術開発や普及のレベルを理解できるように都市施設や企業などの訪問も積極的に進めている。

2004年10月には両コーディネータおよび全グループリーダーが集まり「包括セミナー」を開催し、過去4年間の活動をレビューするとともに今後の進め方について討論した。その結果、(1) セミナー中に特定のテーマについて深い議論ができるような特別セッションを設けること、(2) 各大学の教育システムについて紹介し議論する機会をセミナー中に設けること、(3) 特に若い研究者が共同研究者の研究室に比較的長期に滞在できるようにし、研究の融合化を図ること、(4) 特定の分野での研究を進めるために、研究資金の共同申請を促進すること、などが重要な課題として提起された。

3. 課題と展望

拠点大学交流事業では、具体的な共同研究を推進する経済的基盤までを支援されているわけではない。一方、共通の認識や相補的知見を活用して国際共同研究を推進していくことは環境科学や都市環境研究にとって極めて重要なことである。いくぶん息の長いこの拠点大学交流事業は、互いの相手国の研究者を理解し協働していける研究者を発見し、切磋琢磨し合える環境を提供するのには大いに役立っている。この交流が1つのプラットホームとしての役割を果たしているといえる。その成果は、このプラットホームを基盤として、いかに優れた共同研究が孵化してくるのか、いかに若い研究者が触発されて活性化されていくかにかかってくるといえる。

拠点大学交流を土台とした新たな展開として以下のような事業が次々と生まれてきていることは真に喜ばしいことである。

拠点大学交流の活動の実績に基づいて、マラヤ大学、清華大学および京都大学の間で、文部科学省資金による、現代的教育ニーズ取り組み支援プログラムでの「国際連携による地球・環境科学教育―アジア地域の大学との同時進行型連携講義の構築と実践(研究推進責任者;荒木光彦工学研究科長、2004~2006年度)」が開始されており、また、清華大学の協力を得て清華大学深?研究生院での都市環境工学専攻の寄附講座「日中環境技術研究講座」の設立が2005年10月1日に計画されている。

本稿をまとめるに当たり、マレーシアとの拠点大学交流コーディネータである津野洋教授に多くのご助言をいただきました。記して謝意を表します。

教授 都市環境工学専攻)