巻頭言

桂キャンパス福利・保健管理棟−竣工までの経緯−

西本 清一

桂キャンパスの福利・保健管理棟(図1)は平成17年3月末に竣工し、その竣工披露式が同4月8日午前11時30分より執り行われた。福利・保健管理棟の延べ面積はほぼ2,506㎡で、保健管理施設に347㎡、福利施設に1,961㎡、設備室に193㎡がそれぞれ割り当てられている。保健管理施設には、受付・事務室、処置・休養室、検査室、診療・遠隔医療室、カウンセリングルーム、ヒーリングルーム、エクササイズルーム、更衣室、研究室、会議室(兼スタッフルーム)、倉庫ほかが配置されており、従来の保健機能に加えてカウンセリング機能の充実が図られている。福利施設の1階では桂キャンパス生協ショップとフレンチレストラン「ラ・コリーヌ」が、2階では外部の展望デッキ(図3)を共有したカフェテリア「セレネ」とカフェ「アルテ」(図2)がオープンし、学生・教職員のキャンパスライフを支えている。クラスターAの電気系総合研究棟(A1棟)と化学系総合研究棟(A2~A4棟)への第一期研究室移転が始まったのは平成15年4月(移転研究室の数は7月に入って急増し、9月中に完了)であったから、桂キャンパスで早朝から深夜まで研究教育に取り組む学生・教員、さらにその活動を支える事務職員にとって、ほぼ2年を経て曲がりなりにも食の環境が整ったことになる。現在では、昼食時になると、A~Cの各クラスターからカフェテリアやレストランを目指して移動する人々の流れが日常繰り返される光景となり、それまでは人の気配が乏しくひっそりとした雰囲気を漂わせていた桂キャンパスが、千人を超える人々の活動の場であるという事実を漸く実感できるようになった。

桂キャンパス福利・保健管理棟

図1.外観南西面

桂キャンパス福利・保健管理棟

図2.2階展望デッキ

桂キャンパス福利・保健管理棟

図3.カフェ「アルテ」

本稿では、『吉田から桂へ』シリーズの続報として、多少の紆余曲折を経てオープンに至った福利・保健管理棟の整備について、その経緯を紹介する。

桂キャンパスの移転計画と基本設計は平成12年10月4日に開催された文部省(当時)の国立学校施設計画調整会議で了承されたが、そこに至るまで何度となく繰り返された文教施設部との折衝過程で、広島大学におけるキャンパス移転の経験を踏まえて食の確保を重視し、桂キャンパスの第一期移転時期に合わせて福利棟(食堂)を建設する方針が固まっていた。ところが、平成13年2月15日に着工したクラスターAの施設整備が順調に進むなか、同4月18日に文部科学省は国立大学等施設緊急整備5カ年計画を発表し、基本計画期間(平成13年度から5か年間)における国立大学等の施設整備については、PFI(Private Finance Initiative)等の新たな整備手法の導入を検討してコスト縮減を図る方針が示された。国の財政悪化と相俟って、財政資金をより効率的かつ効果的に活用するために、資金力、経営能力、技術力、その他の能力を備えた民間企業の主導により公共施設の設計、建設、維持管理を実施する民間資本活用型社会資本整備、いわゆるPFI事業(平成13 年法律第151 号「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」に基づく事業)の導入がにわかに現実味を帯び出したのである。こうして平成13年度に調査費が計上され、懸案となっていた地球系の総合研究棟Ⅴを、福利・保健管理棟と一体化したPFI事業によって整備する可能性について調査検討することになった。1992年に英国で始めて導入されたPFI方式による公共サービスの提供では、民間が投入した資金の一部を回収するための収益事業を組み込んだ場合に、費用対効果(VFM: Value for Money)の面で成功事例が多いことから、総合研究棟の整備にレストランやショップを配置する福利棟を組み込む案が浮上したのであろう。しかしながら、桂キャンパスのマーケット規模は小さく、大学から補助を得られなければレストラン経営は困難であるとする調査結果が出され、PFI方式と従来方式の間で施設整備業務と維持管理業務のみのVFMを比較評価せざるを得ないことが明らかになった。

PFI事業の調査検討が始まった時点で、福利棟の建設はクラスターAへの第一期移転時より少なくとも1年以上遅れる見通しとなったため、クラスターAに移転する千人近くの人々の食を賄う代替施設の整備が緊急に解決すべき重要課題に浮上した。もともとクラスターBの福利棟とは別にサテライトレストランの配置を構想していたこともあって、狭いながらも温かい食を提供し得るレストラン「ハーフムーン・ガーデン」とベーカリーショップ「つきのき」(平成17年1月に「つきのき」が閉鎖され、同10月から新たにベーカリーカフェ「リューヌ」がオープンしている)を、クラスターAから延びるヒルトッププロムナードの下部に急遽配置することとなった。残念ながら、これらの食施設のオープンは当初予定より遅れ、クラスターAに早期移転した研究室の学生・教職員はバスに乗車して飲食物を買いに出かけなければならない事態が発生してしまった。このような状況下にあって、文字通りのライフライン確保の一助になればと、大学院生のボランティアグループがウェブサイト「桂Lifeline」を立ち上げ、食情報ほかを流してくれるようになった。今さらながら、大学院生諸君の支援活動に感謝する次第である。

平成13年度の調査結果を踏まえ、地球系の総合研究棟Ⅴと福利・保健管理棟の2施設について、これらの施設整備業務と維持管理業務を一体のPFI事業として整備する方針が打ち出された。この実施方針は平成14年9月30日に公表され、事業内容、事業者の募集と審査選定方法、施設整備に当たって予想される責任とリスクの分類、官民間のリスク分担、大学による事業実施状況の監視、桂キャンパスの立地条件、施設の規模と配置、事業計画や契約の解釈に疑義が生じた場合の措置、事業の継続が困難となった場合の措置、法制上並びに税制上の措置、財政上並びに金融上の支援、及びその他の事項について、それぞれの詳細が明らかにされた。

PFI事業による施設整備の実施方針が公表された後、地球系の移転ワーキンググループ及び福利・保健管理棟ワーキンググループを中心に、施設の設計及び建設、建物の維持管理業務、設備の保守管理業務、清掃業務、植栽・外構維持管理業務、警備内容に要求すべき水準が取りまとめられ、具体的な内容を記載した要求水準書(案)が平成14年12月26日に一般公開された。続いて、これらの要求水準を満たすことを前提に、総合研究棟Ⅴと福利・保健管理棟の施設整備を一体化してPFI方式で実施した場合と大学が自ら実施した場合を定量的に比較評価した結果、PFI方式の導入により財政負担額を21.8%削減されることが見込まれた。このような一連の手続きを経て、PFI法第6条に基づき、総合研究棟Ⅴと福利・保健管理棟の施設整備を特定事業として選定するのが適当と判断され、この結論が平成15年1月21日に公開された。ここで、PFIの選定事業者が担うことになる施設整備業務の内訳は以下のとおりである。

  1. 事前調査業務(地質調査含む)及びその関連業務
  2. 施設整備に係る設計(基本設計・実施設計)及びその関連業務
  3. 施設整備に係る敷地造成、建設工事及びその関連業務
  4. 工事監理業務
  5. 電波障害調査・対策業務
  6. 建設工事及びその関連業務に伴う各種申請等の業務

また、維持管理業務の内訳は、

  1. 建物保守管理業務(点検・保守・修繕・更新その他一切の保守管理業務)
  2. 設備保守管理業務(設備運転・監視・点検・保守・修繕・更新その他一切の保守管理業務)
  3. 清掃業務(建築物内部及び外部・ガラス清掃業務)
  4. 植栽・外構維持管理業務
  5. 警備業務(機械警備)

であり、施設の維持管理業務における光熱水費は京都大学が実費を負担することになっている。

こうして、大学が設定した要求水準を達成するための提案書を民間から募り、内外の学識経験者6名と大学職員2名で構成される「京都大学(桂)総合研究棟Ⅴ、(桂)福利・保健管理棟の施設整備事業審査委員会」を設置(委員の氏名はウェブ上に公開された)して、以下の選定基準と手順に従って提案書の内容が審査された。

  1. コスト算出による定量的評価
  2. 事業者に移転されるリスクの検討
  3. PFI 事業として実施することの定性的評価
  4. 上記1.~3.を見込んだVFM(Value for Money)の検討による総合的評価

また、事業提案の審査はつぎの三段階方式で実施された。

  1. 提案価格が予定価格を下回っていることを確認し、予定価格を超えていれば失格とする(入札価格の評価)。
  2. 基礎審査(60点満点)において、必須項目の要求水準を充足している場合に60点を与え、ひとつでも充足しない必須項目があれば失格とする。
  3. 定量的審査(40点満点)において、事業計画、施設整備計画、施工計画、維持管理計画について大学が特に重視する項目について、要求水準を超える優れた提案内容であるか否かを評価し、優れていると評価された項目ごとに加点する。
  4. 基礎審査(必須項目)の得点と定量的審査(加点項目)の得点の合計点(100点満点)を入札価格で除した数値(合計点/入札価格)で総合評価し、最も高い数値を得た提案事業者をPFI事業者として選定する。

因に、福利・保健管理棟の施設整備計画について加点項目に挙げられたのは、環境保全性、創造性(外観・空間の魅力・快適性)、機能性1(動線計画)、機能性2(室内環境への配慮)、機能性3(柔軟性)、社会性(バリアフリー・開かれた施設)、経済性1(耐久性・保全性)、経済性2(ライフサイクルコストの低減)である。上記の三段階審査に基づく民間事業者の選定結果は、平成15年7月18日に一般公開された。

これらの手続きによって選定された民間事業者は、PFI 法に基づき、事業者が自らの提案を基に2施設の設計・建設を行った後、大学に所有権を移転し、「事業契約書」等に示された内容の業務を、いわゆるBTO(Build Transfer Operate)方式により実施することになっている。福利・保健管理棟については、すでに大学への所有権移転が完了しており、総合研究棟Ⅴの所有権移転の日も近い。事業契約締結の日の翌日から平成30 年3 月末までの15年間をPFI事業期間と定めており、この間、国が入札価格相当額を割賦で支払うことになる。

以上、PFI方式によって整備されるに至った福利・保健管理棟の計画から竣工までの経緯を紹介した。今後とも国立大学の施設整備にPFI方式が導入されることは確実な情勢であることから、その手続き面についてやや詳しく述べた。

(教授 物質エネルギー化学専攻)