桂キャンパスへの移転(地球工学系3専攻)

家村 浩和

家村 浩和眼下に京都の市街地を見下ろすたおやかな丘陵地、ふき来るさわやかな風、硬質で味わいのある空気、林と芝生に囲まれたゆとりあるレイアウト、広々としたエントランスや廊下、十分な面積を噛する実験室などの研究施設、ホテルなみの清掃やメンテナンス。これらいずれも、欧米の大学でしかあり得ないと思い込んでいた現想的な環境を、地球工学3専攻は、21世紀の新しい時代にふさわしい教育・研究施設として、今、快適に享受している。

地球工学系3専攻(社会基盤工学専攻、都市社会工学専攻、都市環境工学専攻)は、平成18年9月、京都大学創設の地吉田キャンパスを離れ、桂キャンパスCクラスターの総合研究棟Vに移転した。

桂キャンパスのマスタープランで、A~Dの4クラスターが設置され、地球系3専攻は、建築学専攻、物理系専攻とともに、Cクラスターに移転することとなった。地球系総合研究棟Vの基本設計は平成13年度にスタートし、総面積約27,000㎡の巨大ビルが当初案として示された。

しかしながら、桂キャンパス周辺の住宅地域の景観・環境と十分に調和するよう、建築学専攻の研究棟とともに、基本設計の見直しが計られた。すなわち、丘陵地の斜面上側を約20m程度掘り込み、半地下構造とし、地上部の建物高さを極力おさえること、また巨大な建物は分割して比較的小規模な建物群4棟を渡り廊下で連結し、住宅地からの眺望のための、すき間を作ること、クラスター内の周回道路や外周の盛土などで、建物を相対的に低く見せることなどである。

新桂キャンパス建設に当たっての、京都大学の方針は、「エクセレントな大学作り」というものであったこの理念とともに「桂キャンパス作業部会の建築景観WG報告書」のガイドラインに従って、地球系総合研究棟も将来最低30年聞は、世界的に卓越した施設であるよう基本設計を進めた。また旧来の土木系、環境系、資源系、建築系の異なる分野の研究者が融合して、さらに互いに協力、切磋琢磨して活躍できるように、様々な工夫を設計の要求水準書に盛り込んだ。

地球系総合研究棟Vに関しては、文部科学省の方針にそって、PFI(Private Finance Initiative)事業のBOT(Build Operate Transfer)方式で建設・運用することが、平成14年9月30日に公表された。大学の施設・環境部整備計画室、地球系の建設委員会がとりまとめた要求水準書(案)が、同年12月26日に公表され、事業者の公募が始まった。

桂キャンパスへの移転合計4つの事業連合からの応募があったので、学内の施設整備事業提案審査貝会において、費用対効果(VFM:Value for Money)を考慮した評価が実施され、平成15年7月に現在のPFI事業者(ダイヤモンドリース、昭和設計、竹中工務店、リンレイサービス)が選定され、建設作業が開始された。選定されたPFI事業者からの建築設計案は、我々の提案した要求水準書をほぼ満たすものであったが、室の配置、室内の整備や装飾などに関しては、我々利用者側の担当者と設計・建設担当者の間で、詳細な検討を行い、予算的に許される範囲内での設計変更を、丹念に数多く実施した。

エントランスや廊下は、地球工学の研究棟にふさわしく広々としたものとした。特にエントランスには、円柱を両サイドに並べて角の立たない大空間を創出し、正面の大きな木製の壁の中央には、吉田キャンパス赤レンガ建物の正面写真を配置し、伝統ある専攻群のイメージを演出した。エントランスホールの右側には、透明のガラス壁を通してホールから見通せるパネル展示室を設け、合計37研究室の研究概要を短時間で閲覧できるようにした。また左側にはゆとりあるラウンジスペースとして応接セット4台を配置し、さらに棟内案内閣・建物模型・電子案内装置をそなえて、来訪者の便宜を計った。このラウンジの他、各階にもラウンジを設け、思索や休憩の場とした。

建物内の壁や居室のドアなどの色調は、地球上の自然に存在する色で、おちつきのあるダークブラウンとした。

地球工学系専攻の研究は、社会との係りが大きい。こうしたことから、外部の関係者との会議が極めて多いのが特徴である。また研究室の数も多い。これらの条件を勘案して、大小5個の会議室、5個のセミナー室を配置した。

さらに200人程度の国内・国際会議、シンポジウム、セミナーなどを建物内で開催できるよう、大教室、会議室群、ならびに多目的ホールを設置した。大・中の会議室内には、開学以来の名誉教授の御写真を全て掲げて、地球系専攻の伝統を示した。特に多目的ホールは、総合研究棟の中で最も眺望の良いC1-2棟3階に配置し、さらにその外周には、桂キャンパス全体や京都盆地を270°にわたって見渡せるバルコニーを配した。大ホールにふさわしく、天井を高くし、色調も明るい木目を採用し、AV機能も充実させ、多目的の利用に備えた。音響効果も良く、ミニコンサートも可能である。同ホ一ル後方の壁には、桂キャンパスの創設者とでもいうべき土岐憲三先生の揮毫による「人融知涌」の額を、工学概究科長西本清一先生の御好意により掲げた。同ホール名もその一部をとり、グローバルホール「人融」とした。京都市街地の夜景は、桂キャンパスタワーの時計のイルミネーションと共に必見である。

教員の居室については、各人のスペースが吉田滞在時よりも、若干増えるように配慮した。地球系技術室を新しく配置し、技術職員の居室を確保した。

実験室のほとんどは、景観上の配慮から、地下に設置することとなった。吉田時代からの基準外特例面積約2,000㎡の桂移転が認められたため、大学の実験室としては十分なエリアを確保することが出来た。各々の設計に当たっては、将来それらの施設を利用するであろう若手の研究者の要望を可能な限り取り入れ、最新の実験環境を実現できたものと考えている。

建物本体は平成18年3月末に完成したが、移転に関しては、学年はじめの混乱を避け、後期10月よりの開講を目標に実施した。実験関係の特定物品の移設は6月より開始し、12月末頃にほぼ完了した。研究室の居室については7月~9月の期間に集中して行った。この間、地球系桂キャンパス移転委員長の伊藤禎彦教授が指導的役割を果たした。

桂移転後の地球系総合研究棟の清掃やメンテナンスについては、PFI事業者のリンレイサービスが、ホテルなみの管理を実施しており、極めて清潔な環境が保たれている。共同利用室、国内外の招へい研究者利用室等については、研究棟管理委員会(委員長椎葉充晴教授)が管理を行っている。

平成18年11月25日には、地球系専攻の名誉教授、総合研究棟建設に当たってお世話になった皆様方、現教職員など約200名の出席の下、「地球系3専攻の桂移転祝賀会」を3専攻主催、京都大学土木会、京都大学水曜会、京都大学建築会共催で、盛大に開催した。記念式典、棟内見学会、懇親会により、桂キャンパスの完成を十分実感して頂けたものと考えている。なお移転記念として、桂キャンパスおよび37研究室の概要を盛り込んだ「KATSURA」を出版し、地球系3専攻の現状の紹介に努めた。また同時期に合わせて、京都大学土木会、故畠昭治郎名誉教授、京大土木系昭和43年転生一同様より植樹の御寄贈を頂いた。厚く御礼申し上げる次第である。

最後に、環境に恵まれた新しい桂キャンパスの地に移転して、地球工学系3専攻がより一層の発展をとげ、エクセレントな研究集団となれるよう、構成員一同大いに努力致したい所存である。

新桂キャンパスへの移転という、地球系専攻創設以来の大事業は、多くの方々の御協力、御尽力によって、ほぼ完了した。特にお世話になった、元・現工学研究科長:土岐憲三先生、荻野文丸先生、辻文三先生、荒木光彦先生、西本清一先生、京大施設部:坂上定敬氏、大塚正人氏、岩田幸三氏、桂移転準備室:岡崎富男氏、中西由佳さん、昭和設計:山田俊紀氏、竹中工務店現場所長吉田隆一氏、地球系総合研究棟建設委員会;幹事後藤仁志助教授、堀智晴助教授、川崎雅史助教授には紙面をかりて特に御礼申し上げたい。

(教授・都市社会工学専攻)