桂キャンパス極低温施設でヘリウム液化・供給開始

鈴木 実

鈴木 実桂キャンパスBクラスターのインテックセンターに並立する極低温施設棟に、平成18年3月にリンデ社(スイス)のヘリウム液化機と付随設備一式が導入された。導入後約2ヵ月間試運転を経て、昨年7月から液体ヘリウムの供給が開始されたところである。桂キャンパスの移転が始まってからほぼ3年を要することになったが、これで漸く桂キャンパスの寒剤供給体制が整ったことになる。ここに至る過程で、歴代の工学研究科長、低温物質科学研究センター長、財務部、理事、ならびに関係方面の方々に大変なお骨折りを戴いたことを記してまず感謝申し上げたい。ヘリウム液化機を中心とする液化・供給の全システムは、低温物質科学研究センターの管理となるもので、導入とその後の運用に当たっては、技術的な面を含め全面的に同センターの支援と指導を戴いた。現在は同センターの桂キャンパス極低温施設として、工学研究科の教員1名と職員1名が兼務で運転と寒剤供給に当たり、寒剤供給に関する体制は、安全管理を含めて、工学研究科の教員からなる桂キャンパス寒剤供給施設管理運営委員会が支えている。

桂キャンパス極低温施設でヘリウム液化・供給開始

図1 桂キャンパスにおける極低温供給関連施設

図1に桂キャンパスの極低海関連施設を示す。Bクラスターの極低温施設には、ヘリウム液化機と10立米の液体窒素貯槽があり、ヘリウム液化の際の予冷と、液体窒素利用者への自動供給および集中配管による気化窒素ガスの供給に用立てられている。Aクラスターにも同型の液体窒素貯槽と自動供給装置があり、3年前の移転開始直後から稼働しているが、ヘリウム液化機の導入を機に、Bクラスターの極低温施設管理室で一元的に管理されるようになった。液体窒素は今日、実験研究の必需品とも言える。常時供給可能な自動供給装置は各種実験の進捗には欠かせないものになってきている。また、液体窒素から集中配管を通して供給される露点の低い高純度の窒素ガスは、供給量が豊富で安価であるだけでなく、ボンベ交換の手間を省き、建物内のボンベ数削減に寄与して、消防法の遵守と安全管理の面で大変有効である。Bクラスターでは、設置して間もないこともあり、この設備の利用がまだほとんどないが、Aクラスターでは購入した液体窒素の気化窒素ガス利用が20%を超えるようになった。こうした設備は、新しいキャンパスになることでできたものであり、できるだけ多くの人に利用して頂きたいと願う次第である。

ゼロエミッションを旨とする桂キャンパスでの液体ヘリウム利用は、回収と再液化が基本である。桂キャンパスには、ローム記念館を含めてヘリウムガス回収配管が張り巡らされている。液体ヘリウム利用者は、テクニカルスリットまで延びているこの回収細管に実験室から配管接続していただくことにより、ヘリウムガスが回収される。現在、馬面に6カ所にヘリウムガス回収サブステーションが設置され、使用ヘリウムガスはいったんガスバッグにため込んでからBクラスターにある極低温施設の30立米のガスバッグに定期的にポンプで自動的に送られるシステムである。図2の写真は極低温施設にあるヘリウムガス回収バッグである。また、事故等により回収ヘリウムガスに空気等が混入して純度が90%を下回った場合、純度が回復されるまでヘリウムガスは大気中に放出し、液化機や精製装置への負担を減らし、運転の信頼性を維持する仕組みになっている。できるだけ多く回収して貰いたいために、吉田キャンパスと同じように、液体ヘリウムの利用者単価は回収率が高いほど低価格に設定している。だからといって、回収しなければ液体ヘリウムの供給が受けられないというわけではない。回収率が0%でも、市販の液体ヘリウムの単価よりもかなり安い単価で供給を受けられるので、できるだけ極低温施設から液体ヘリウムの供給を受けて欲しくここでもお願いする次第である。さらに利用者の便宜ため、極低温施設では共用の液体ヘリウム容器(100リットル)を5台備え、さらに勾配のあるプロムナードを搬送する際の安全を考えて、搬送台車を2台用意している。また、過渡的なサービスとして、実験装置への液体へリウム充填の支援・補助も受けることができるので、極低温施設からの液体ヘリウム供給を是非利用して頂きたい。

桂キャンパス極低温施設でヘリウム液化・供給開始

図2 極低温施設内機械室のヘリウムガス回収バック(30㎥)

桂キャンパス極低温施設でヘリウム液化・供給開始

図3 ヘリウム液化機(奥)と液体ヘリウム貯槽(手前)

今度、桂キャンパスに導入されたヘリウム液化機は新型のL140機である。この装置の外観と横に設置された2000Lの液体ヘリウム貯槽を図3に示す。L140機の液化能ヵは従来同型機よりも向上し、仕様では1MPa未満で純度98%以上のヘリウムガスを使用した場合の液化能力は85L/hである。これまでの実績では100L/hを超えており、きわめて順調に稼働している。この液化機を用いた場合、週日勤務時間内だけの運転で年間3万Lの液体ヘリウムの供給が可能である。これまでの工学研究科の使用実績をあげると、桂キャンパス移転前の平成11年度に、工学研究科が使用した液体ヘリウムは1.9万Lである。平成16年度に桂キャンパスで使用された液体ヘリウムは年1.2万L弱である。今後、物理系の桂キャンパス移転が完了し、液体ヘリウムの需要が毎年10%増加しても、向こう15年は楽に現在の装置でまかなえることになる。また、装置の信頼牲が高くなり、これまでの実績でも同型機に使用されている動圧軸受タービンはほとんど故障せず、定期的な保守作業のみで長期の利用が可能である。先端的な研究には競争が付随するが、そうした競争があっても十分太刀打ちできる液体ヘリウム供給環境であると言える。量子効果の実験には極低温環境が必要である。そうした、低温科学・低温工学の研究の発展を支える施設になって欲しいものである。

一つ、問題が残されている。従来は大型の設備が導入されるとそれに対する維持費が毎年交付されていた。ところが、法人化以降、この維持費が実質的になくなり、桂キャンパスのヘリウム液化機にも維持費がない。そのため、たとえば定期的な法定検査の受検費を捻出するためだけにでも担当者は非常な苦労を強いられている。この問題は大学横断的に共通する問題であるので早期に解決して欲しいと念願する次第である。

(教授・電子工学専攻)