京大建築会:京都大学工学部建築学教室 創立85周年記念事業から

上谷 宏二

上谷 宏二京大建築会は、京都大学建築系教室(建築学科および大学院関連専攻の建築系研究室)の出身者、教員および元教員で構成される同窓会組織で、現在、会長には、川上貢名誉教授が就任されている。建築学科の学科長は、副会長を務めることとなっており、学科の教員が協力して運営を続けている。

会には、北海道、東北、関東、東海、北陸、京都、大阪、兵庫、中国、四国、九州の11支部があり、それぞれの支部でも、自主的な交流会・講演会・懇親会等を行っている。現在会員数は約4800名で、毎年行われる支部長会議(年会)の開催のほか、12月初旬に『京大建築会会報』を発行している。建築系教室の近況、本部・支部の活動報告、会員の寄稿等を掲載し、会報の発行は会員間の情報交流にとって重要な活動である。

工学部建築学科、工学研究科建築学専攻、都市環境工学専攻(建築系)に入学した学生は、準会員となるので、京大建築会の行事や会報等を通じて、歴代先輩がどのような所属・分野で活躍しているかを見聞し交流する機会をもつことができる。また、直接、講義を受ける機会のない、旧教員や名誉教授と交流する機会にもなる。卒業・修了生にとっても、互いに連絡をとる場合などの重要な交流プラットフォームになっている。

〔建築学教室創立85周年記念式典〕

昨年度、京大建築会では「京都大学工学部建築学教室創立85周年記念京大建築会式典」を9月17日に、京都大学百周年時計台記念館・百周年記念ホールを会場として開催した。2004年9月に建築学専攻が桂キャンパスに移転し、建築学科も2005年6月に工学部3号館に移転するなど、大きく教育・研究環境が変化した直後で、大勢の旧教員や卒業生の方々に、新しい環境を紹介することが必要と考えられた。そこで、式典にあわせて、工学部3号館において、設計演習優秀作品展(9月17日~22日)、桂キャンパスにおいて、C2棟を中心とした見学会(9月18日)も、開催した。

竹脇  出*1
鉾井 修一*2
門内 輝行*3

C2棟の見学会では、棟内のデザインラボ、構造系実験ラボ、環境実験ラボ、図書室、講義室、会議室、研究室等と、棟内の全体像を紹介した。教員や大学院生が施設・研究紹介やデモを行い、新しいキャンパスの環境を会員に直接説明した。

設計演習優秀作品展では、建築学科の1~4年生が2005年度前期に取り組んだ設計演習、造形・CG実習における優秀作品の中から、建築学科設計教育委員会によって選出された66点、さらに、2005年の日本建築学会設計競技で最優秀賞を受賞した学生の作品1点を、工学部3号館4階の展示ギャラリーにて展示した。期間中、卒業生や在校生を中心に、一般の見学者も含めて、200名近くが観覧した。この会場となった展示ギャラリーは、工学部3号館の改修工事にあわせて整備されたもので、普段は、広いホールのような空間となっているが、可動パネルの組み合わせによって、自由に展示空間をつくることができるようになっている(写真1)。

京大建築会

このギャラリーの整備によって、設計演習作品講評会に際して、演習履修者全員の作品図面と模型を展示し、履修者および演習担当教員と学外の非常勤講師が一同に会して講評会を行うことが可能となった。また、演習作品の講評会が終了した後もおよそ1週間、展示を継続し、講評会に来場できない他の学年の学生・院生等が見学に来ることもできるようになっている。作品展は、最も若い会員である学部学生の力作を紹介することに加え、新しい演習環境とその活用状況を、卒業生や旧教員にも体験していただくことを主旨としたものであった。

〔記念シンポジウム:建築教育のビジョン ―大学と社会の連携〕

京都大学工学部建築学教室創立85周年記念京大建築会式典では「建築教育のビジョンー大学と社会の連携」と題するシンポジウムを開催した。中村恒善名誉教授の基調講演「建築学と建築教育の21世紀ビジョン」、ならびに、門内輝行教授のコーディネートにより、卒業生4名をパネリストに迎えたパネルディスカッションを行った。

中村恒善名誉教授の基調講演では、日本学術会議での新しい学術体系などに関する議論を紹介しつつ、分野に細分化された個別的技術を統合・総合する全体システムを扱う「設計学」の重要性を説かれた。多領域属性を有する多主体システムとしての生活空間の統合システムを捉える、Multi-agentSystem Modelを提示され、そのシステムの「常態記述の科学」と「状態改善設計の技術・科学」の重要性を提唱された。さらに、そうした多領域を総合する全体システムにかかわる知の創造を、博士の育成に期待する点を強調された。

基調講演において、多領域にわたる全体システムという視野が示されたことをうけ、パネルディスカッションでは、(1)21世紀の建築・都市環境の問題を解決するには、総合能力や対話能力が求められる、(2)大学と社会の有機的な連携が求められる、という2つの論点が、コーディネーターの門内教授から示された。これに対して、4名のパネリストがそれぞれ「領域横断的に問題点に取り組んだ事例や異領域の人々とコラボレートした事例の紹介」「京大建築系で学んだことで、何が役立ったか、あるいは自らの実践を通じて、何を学んでおく必要があるのか」についてプレゼンテーションを行い、ディスカッションが進められた。パネリストとしては、民間企業で活躍する卒業生からそれぞれ建築設計部門、構造設計部門の方、大学教育に携わる立場から現教員、建築出身でIT分野の企業を設立した若手卒業生の方、さらに、行政で活躍する卒業生から国土交通省の方の計4名が登壇した(写真2)。

京大建築会

元来、建築設計は、多様な課題や実現目標を総合的に解き、まとまった結果として1つの作品にまとめるという仕事である。そのため、問題の複雑さや多様さに対応するためにも、領域横断的な専門家間での協力や、クライアント・ユーザ一から、設計者・施工者・メンテナンス技術者といった、異なる立場の関係者の間での連携が重要とされている。パネリストは自らの仕事の経験を通じて、クライアントやユーザー、関連する多領域のデザイナー、技術者、施工者等の密な協力によって初めて実現した建築・都市プロジェクトやシステム開発の事例を紹介し、多領域間コラボレーションを伴う仕事を進めるにあたっての、技術力・教養の幅広さ・総合力・取り組み姿勢の重要さを論じた。また、法制度などの全体システムの整備に直接携わる現場での、関連領域間協力と社会における位置づけの重要性が強調され、今後の建築系から育つ人材がもつべき、価値創造力・説明能力、社会との結び付きの意識の必要が述べられた。

大学における建築教育についての議論にあっては、基礎的学力や幅広い知識の習得はもとより、日ごろの協働作業やディスカッションを通じて習得される総合力やコミュニケーションカ、自ら課題や価値を発見する能力につながる学ぶ姿勢の育成が提言され、そのためにも、実務との接点をもった教育、現場の臨場感のある講義・演習を展開する必要があることが論じられた。また、そうした教育の場への、同窓会による貢献についても興味深い提案があった。

シンポジウムには、およそ300名の参加があり、その後に百周年時計台記念館の2階で開催された祝賀懇親会には、シンポジウムの余韻を引継ぎつつ、350名の卒業生が集った。

この記念事業の記録は、2005年版の会報に詳細が掲載され、京大建築会の会員に報告されている。また、さらなる展開として、この事業での協力によって出来た「縁」を発展する形で、2006年10月には、現役学生・大学院生が主催する、学生と卒業生の交流事業が準備されている。卒業生や卒業生の勤務先の関係者と交流する機会をもつことは、大学の教育成果を,学外の目を通じて知る重要な機会である。

現教員・学生・院生などの大学在学者と密に連携協力し、社会に広く貢献していく同窓会として、さらにその役割を充実したものとしていくよう、運営の工夫がなされているところである。

(*1教授 都市環境工学専攻・建築学科長)
(*2教授 建築学專攻・85周年記念事業実行長)
(*3教授 建築学専攻・記念シンポジウム担当)
(教授・建築学専攻)