安全・安心な都市社会の形成のためのガバナンスメカニズムの構築に向けて

吉田 護

吉田 護2008年12月1日より、文部科学省グローバルCOEプログラム「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点」の特定助教として研究を行っています。本プログラムでは、4つの研究領域(都市ガバナンス、都市インフラ管理、健康リスク管理、災害リスクマネジメント)と6つの海外拠点(ハノイ・シンセン・シンガポール・バンコク・バンドン・ムンバイ)を核として、徹底した現場主義のもと、都市の人間安全保障工学という新たな研究領域の確立と高度な実務者を養成する教育拠点の設立を目指しています。

私は本プログラムの特定助教として、社会的インフラの一つである「制度」に着目した上で、建設市場やまちづくり活動を対象に、利害関係者間の階層性とインセンティブを考慮したガバナンスメカニズムの設計及び運営に関して、理論的、実務的な立場から研究を行っております。利害関係者に適切なインセンティブを付与する制度を設計し、運営していくことは、安全・安心な都市社会の形成を構築していく上で必要不可欠な研究課題となります。

現在私が行っている研究の一つに、検査者のガバナンスメカニズムの構築があります。2006年度に発生した構造計算書偽装問題は、既存構造物の耐震性への国民の不安を引き起こすと共に、構造物の生産に関わる利害関係者の不信を招く結果となりました。この問題を解決する上で着目すべき点は、一部の近視眼的なディベロッパー、設計者、施工者の行動を検査者が見抜くことが出来なかった点にあり、さらに、適切な検査が、構造物の安全性や設計者・施工者の信頼性を確保する上で重要な役割を果たしています。そのため、構造物の耐震性、信頼性を確保するためには、検査者の能力や意図を考慮した検査者の適切なガバナンスメカニズムの構築が必要となります。

安全・安心な都市社会の形成のためのガバナンスメカニズムの構築に向けてこうした構造物の生産に関わる利害関係者の問題は、日本だけの問題ではありません。構造物の耐震性を確保することは、最も基本的な地震からの被害を軽減する上での対策ですが、技術的な問題の一方で、人為的な問題が地震の後にはたいていの場合報道されています。また、構造物の耐震性の問題に限らず、多くの安全性管理に関わる問題が、この検査者に関わる問題に帰着されます。

安全・安心というベーシックヒューマンニーズを充足するためには、技術的な問題だけでなくそれを取り扱う人為的な問題を同時に考慮する必要があります。その点において技術論と制度論の双方を含んだ研究領域が必要であり、私は今後、こうした分野横断的な研究領域の展開を目指して研究を進めていきたいと考えています。

(特定助教)