材料工学専攻の一研究室の雰囲気紹介

宇田 哲也

宇田 哲也私たちは、人類が直面しつつあるエネルギー問題への材料学的な貢献に興味があり、また、熱力学・電気化学を究めたいという信念のもと、プロトン伝導性酸化物を用いた中温型燃料電池の開発、チタンなどのレアメタルの新製錬プロセス、リン酸塩をベースにした新規固体電解質、新しい組成の化合物太陽電池の研究を行っている。研究室には、私以外に、助教、技術専門職員、大学院生、学部生、また、その他サポートスタッフが属し、皆で毎日、充実した楽しい悪戦苦闘の日々を送っている。さて、私が材料工学専攻に赴任して以来4年と3ヶ月が経過した。あっという間であったが、リベラルな雰囲気のもと皆様からご支援を頂き、なんとか競争的資金を獲得し、スタッフ、学生達とともに実験室の整備を進め、今では思いついたことをいつでも実験できる無機化学プロセスの研究環境が整いつつある。元来、工作や実験が大好きであるのでこれは大変幸せな光景である。材料の研究は、主に、材料の設計、合成、評価の3本柱で成り立つ。私たちは真ん中の合成のパートを中心に、経験則に従う若干の材料設計と、汎用的な評価の領域に踏み込んだ研究を行っている。材料の合成プロセスでは、化学熱力学に基づく洞察が、自然と進むべき方向の指針を与えてくれ、大きな威力を発揮している。具体的には、鉄、銅、亜鉛などの金属製錬の分野で発達してきた合理的な考え方がすでに存在し、私たちはこれを新しい素材・材料の合成プロセスの研究に生かしている。巨人の肩の上に乗った小人ではあるが、研究の見通しが効き大変ありがたい。とはいえ、事実は簡単ではなく、不思議な現象がたくさん現れる。その解決手段は、話をすることと、絶えず考えることだと思う。どんな些細なことでもスタッフや学生同士で話をし、また考え続ければ、仮説を立てることに到達できる。仮説は、とんでもないものから、もっともそうなものまで種々雑多であるが、実験室でそれを検証できる。実験結果はその仮説を否定するかもしれないが、それは新しい仮説のためのフィードバックにつながり、より確度の高い仮説へ至る。このような研究材料工学専攻の一研究室の雰囲気紹介手法は、当たり前のことであり、言うまでもないことである。しかし、実際には、学生の中には、教科書の鵜呑み、もしくは、○○先生がこう言っていた、などの理由で天下り式に前に進もうとするものもおり、絶えず考えることの重要性を学生に要請しつづけている。考え、納得のできる理由をみつけ、それを検証するスタイルが、学生が卒業し社会で活躍するために身につけるべき能力であると信じる。昨今の新聞、TVをはじめとする表層しかみないアマチュアで間違いの多いテクノロジー報道の多くは、メーカー広報、有識者の発表・コメントなどを鵜呑みにした結果が招いていると言わざるを得ない。国連の機関の発表を無批判に信じることのできる根拠はどこにあるのだろうか?考えることを他人任せにする事例は、マスメディアだけでなく、今の社会全体に満ちあふれていると危惧する。よって、自分で考え歩けるようになる、ように学生に教育を行うことは、材料の研究だけでなく、社会全体の将来にとっても大事であり、私たちは、目の前の材料をネタに、皆でああでもないこうでもないと考える毎日を過ごしている。

(准教授 材料工学専攻)