円滑・安全な道路交通の実現に向けて

塩見 康博

塩見 康博私は2008年9月に故 北村 隆一教授のご指導の下で学位を取得し、同年10月1日より交通情報工学分野で助教を務めております。専門としているのは「交通工学(Traffic Engineering)」という分野であり、円滑・安全・快適な交通環境の実現に向けた研究が行われております。

GWなどの連休、お盆などには風物詩のように高速道路での渋滞が報道されます。また、平時においても、特定の区間・時間帯で渋滞が発生し、テレビやラジオを通じて渋滞情報が報じられております。このような高速道路で発生する渋滞の原因を究明し、改善策を提示することも、私が取り組んでいる主要な研究テーマの一つです。

高速道路での渋滞の原因には工事や交通事故による車線の閉塞、料金所、合流部などが挙げられますが、最も発生件数の多いのが高速道路上のサグやトンネル入り口など、一見、なんら特別な理由のない区間における渋滞です。中央道の大和サグや中国道の宝塚トンネルなどは渋滞の名所として頻繁に報道されておりますので耳なじみかも知れません。このような区間では、道路が下り勾配から上り勾配へ転じる際、もしくはトンネルに流入する際に無意識のうちにドライバーが減速し、それが後方へ増幅伝播するために渋滞が発生するとされています。

ひとたび渋滞に転じると、走行速度が低下するだけではなく、単位時間当りに通過可能な交通量も著しく低下してしまいます。これは、高速道路が本来有する交通処理能力よりも低下した状態であり、“Traffic Breakdown”と呼ばれています。渋滞時には交通事故も発生しやすいことが分かっており、交通の円滑性・安全性を維持するためには、いかにTraffic Breakdown を発生させず、高速道路本来の交通処理能力を維持させるかが重要となります。

円滑・安全な道路交通の実現に向けてそれではどのような状況でTraffic Breakdown は発生するのでしょうか。これについては、「交通量が多い状況」とは言えても、それ以上に詳細なことはまだあまり分かっていません。元来、交通流の詳細な観測は難しく、また、交通状況を規定する要因は天候・交通量・大型車の混入率など多岐に渡り、それらを統制することは不可能と言えます。しかしながら、情報処理技術の進展に伴い、高速道路上に設置された車両検知器で取得される交通流データ、ビデオ画像解析による走行軌跡データ、ドライビングシミュレーターによる走行実験など、様々なデータの利用や研究アプローチが可能となっております。それらを統合して用いることで、TrafficBreakdown を発生させる状況を特定、モデル化し、高速道路の機能を高い水準に維持するための方策を提案すべく、研究を進めております。

交通は人々の生活、社会経済活動を根底で支える社会資本であり、円滑・安全な移動の欠落は大きな社会的・経済的損失を招きます。今後も、このような社会的意義を強く認識し、我々の社会が少しでも改善されるよう、教育・研究に取り組んで行きます。

(助教・工学研究科都市社会工学専攻)