石の上にも10 年?

薄 良彦

薄 良彦筆者は、2005 年電気工学専攻に助手として着任して以来、電気電子工学に関する教育及び研究に従事しています。その間、米国・カリフォルニア大学サンタバーバラ校(UCSB)に滞在し、異なる大学、文化、環境を経験する機会を頂戴しました。研究分野としては、卒業研究(1999 年)より電力工学(電力システム・電力変換)及び非線形力学系の理論と応用などに取組み、10 年以上の月日が過ぎました。

京大では電気工学専攻に所属している筆者ですが、UCSB では機械工学科に所属しました。非線形力学系の研究のご縁から在外研究の機会を得たのですが、筆者の共同研究者は流体力学やナノテクノロジー、非線形力学系が専門で、電力システムについては初歩しかご存知ありません。それだけで無く、UCSB には電力システムの現役の研究者は渡米時点(2008 年)では皆無でした。渡米の目的は、筆者のベースである電力システムを意識しつつも、非線形力学系や制御工学の基礎勉強を行うことでしたので、これらのことは米国滞在の計画時から気に留めずにいたのですが、結果的に筆者にとって大変プラスになりました。UCSB でお会いする研究者に自己紹介するためには、電力システムの動作原理や問題についてゼロから説明しなければなりません。フェーザ表示とは?無効電力とは?動揺とは?特に、安定性という言葉については流体力学での術語と隔たりがあり、繰り返し意見を交換しお互い納得しなければ研究は進みません。このことは、電力システムについて力学の基礎から考え直す機会になり、現在に至る様々な問題設定に繋がっています。また、異分野間の交流により、新しいアイデアをお互いの分野で交換したり(流体力学やナノ・バイオテクノロジー)、異なる分野の問題の背景にある共通の力学的知見を見つけたりと、大変知的に楽しい滞在になりました。異分野融合が叫ばれて久しいですが、このような地道な対話以外にそれを進める手立ては無いように思えます。また、滞在開始時(2008 年)には皆無に見えたにも関わらず、グリーン・ニューディール政策の提唱と共に、2009 年には複数の研究者が電力システム分野で仕事を始めていたのは、米国の研究者のフットワークの軽さと仕事の早さを痛感させるものでした。この場合も筆者は10 年間蓄積してきた知識をもとに、様々な著名な研究者と交流することができ、他分野から筆者の研究内容について様々コメントを頂戴し議論することができました。このような経験から、自分が興味を持った問題について10 年間研究を続け着実にアウトプットしていくことが研究者のアイデンティティを育むために重要であると実感しています。これからは、現在の環境・エネルギー分野への注目を背中に感じつつ、新しいアイデアを常に携えて研究開発を進め、たくさんの先生や先輩から頂戴した知識や験を後輩に伝えて伝えていきたく思っています。

石の上にも10 年?

研究発表中の筆者 (撮影:高橋亮氏、木村真氏)

最後に、約10 年前に電力システムの研究に強制外力として筆者を引き込んで頂きましたメンターであるH 先生とU 先生、筆者の拙い英語に根気よくお付き合い頂いた共同研究者のM 先生に心から感謝の意を表し、取り留めない拙文を終えたいと思います。

(講師・電気工学専攻)