燃料電池の特長とその材料開発

室山 広樹

室山助教私は2000 年に工学部工業化学科に入学した後、江口浩一教授の指導の下、 2009 年に博士(工学)を取得し、助教に着任しました。入学当初からエネルギーに関連した分野に興味を持っていたことから、江口教授の研究室を希望し、燃料電池材料の研究を行ってきました。東日本大震災にともない生じた原子力発電や節電の問題からエネルギーの重要性が一層増してきており、燃料電池への期待も高まってきています。燃料電池の反応は水の電気分解の逆の反応であり、水素と酸素から水、電気、熱を生み出します。水素は天然に存在しないので、現在は主に化石燃料の改質から製造されます。したがって、燃料電池は電気を得るために化石燃料を必要としますが、内燃機関に比べ、エネルギー変換効率が高いことから、化石燃料を効率よく使用することができると言えます。将来、水素を化石燃料に頼らず製造することができれば、より魅力的な発電システムとなります。 

燃料電池は電解質材料によって分類され、電解質が高いイオン伝導性を示す温度域で作動温度が決まります。現在までに数種類の燃料電池が実用化されていますが、200-300ºC で作動する燃料電池は使用可能な電解質材料がないために開発が進んでいません。この温度域で作動する燃料電池は様々なメリットを持つと考えられます。学生時代のテーマはこの温度域で使用可能な新規の固体電解質材料を開発することでした。リン酸や硫酸を部分的に中和した塩は比較的高いプロトン伝導性を示すことが知られています。これらの塩に他の無機材料を添加した場合、無機材料の特性によって伝導度は変化します。このことから、プロトン伝導相と無機材料から成る複合体電解質において、両相の界面におけるイオン移動が複合体の伝導度に強く影響を与え、界面を適切に制御することが優れた電解質材料の開発に重要であると言えます。適した材料を組み合わせることにより良好な伝導度を示す材料が開発されましたが、実用化には、まだ解決すべき課題は多く残されています。 

写真当研究室では固体酸化物形燃料電池(SOFC)についても活発に研究を行っています。SOFC は700- 1000ºC と高温で作動するため、電極反応抵抗が小さく、他の燃料電池と比べて発電効率が優れています。また廃熱を利用したエネルギー変換機構と組み合わせると、総合エネルギー変換効率が70 ~ 80% に達します。2011 年10 月に新しく販売開始となった家庭用燃料電池システムにはSOFC が搭載されており、普及が望まれています。SOFC は長期運転時や起動・停止時、異常運転時において、より優れた安定性を有することが求められています。これらの運転条件における性能低下の要因の一つは電極微構造の変化にあります。そこで電極微構造と性能変化の相関を明らかとし、安定性の高い電極設計を目指しています。 

現在、研究を進める中で学生と一緒に頭を悩ませながら日々過ごしています。今後も社会に貢献できる研究を続けるとともに、学生の成長を手助けできるよう務めていきたいと思います。

(助教・物質エネルギー化学専攻)