ミリ波無線通信の実用化を目指して

岡田 健一

岡田准教授私は、電子工学科を 1998 年に卒業し、情報学研究科通信情報システム専攻の修士・博士をそれぞれ 2000 年、2003 年に修了致しました。卒業後、東京工業大学の助手として採用され、2007 年からは同大理工学研究科電子物理工学専攻にて准教授を務めております。 

学部学生の頃はあまりまじめに授業に出るタイプではなかったのですが、4回生で研究室に入れて頂き、小野寺秀俊先生のご指導を受け、研究の楽しさに目覚めたのが転機でした。研究室に配属され、最初の大きなイベントは研究テーマを決めることでした。私がやりたかったデジタル回路設計は人気が集中しており、同級生との話し合いによりジャンケンで決める事になったのですが、その結果、希望とは異なりトランジスタ特性の製造ばらつきを測定するという研究テーマに決りました。それでもやってみると、研究というものは掘り下げていくとなんでも面白くなってくるもので、結局、小野寺秀俊先生には博士課程を修了するまでご指導を賜りました。 

教員となってからは、研究内容をがらりと変え、主に無線向け高周波集積回路設計の研究を行っています。高周波回路はRadio Frequency の略からRF 回路と呼ばれ、私はその中でもリコンフィギュラブルRF 回路の研究を行っています。従来は固定の機能しか持ちえなかったRF 回路において、動的な機能変更を可能とするものです。携帯電話では、国やキャリアごとに異なる通信方式や周波数が使われており、それに対応するためには別々の回路を用意する必要があります。各国での利用周波数の多様化や WiMAX, LTE など新たな通信方式の導入に伴ない、益々重要性を増しています。私の研究では、携帯電話だけでなく、電波の種類を選ばず動作する万能の無線機の実現を目指しています。 

現在はリコンフィギュラブルRF 回路技術の対応範囲を広げるべく、総務省の国プロの下、ミリ波を使う無線機の研究開発を行っています。ミリ波とは 30GHz から300GHz の周波数帯の電波を意味します。スマートフォンなどで利用されている2.4GHz に比べ、周波数が非常に高いため扱いが難しいのですが、大幅な伝送速度の向上が可能なため、その実用化が期待されています。ミリ波無線機の実用化のためには集積回路として実現する必要がありますが、意外な事に、最大の課題は学生時代に取り組んでいたトランジスタ製造ばらつきへの対策でした。それもなんとか糸口が掴めつつあり、近い将来、皆様に使ってもらえるものになりそうです。 

もう一つ、私の長年の研究課題に「学生を如何にやる気にさせるか」というテーマがあります。いろいろ試行錯誤しているのですが、近頃はごく単純な方法ですが、世界最高性能のものを作るという目標を学生と共有するようにしています。学生もわかりやすい目標を好むようで、その成果なのかどうかわかりませんが、昨年、無線機LSI として世界最高速となる16Gbps の通信速度を達成することができました。現状の無線LAN の50 倍以上の速度に相当します。大きな研究費を頂いている以上、それに見合う重さの責任も伴ない、学生には負担をかける事も多いのですが、猛烈に働く教員の背中を見て何かを感じてもらえたらという思いで日々研究に邁進しています。

(東京工業大学 大学院理工学研究科電子物理工学専攻 准教授)