就職後の挑戦と変化

畑中 健志

畑中氏私は1998年に工学部情報学科に入学し、片山徹先生・太田快人先生のご指導の下、制御システム論について研究を行い、2007 年3月に情報学研究科数理工学専攻博士後期課程を修了しました。同年4月からは東京工業大学機械制御システム専攻の助教に着任し、早5年以上の月日が流 れました。この記事では、近況報告を兼ねて就職後の取り組みを紹介しようと思います。

就職を機に、私は研究テーマを変更し、現在「協調制御」と題されるテーマに取り組んでいます。局 所的な情報のみをもとに行動する複数のエージェント群に、集団としての目的を達成させるというのが 協調制御の目的です。この課題に対して、理論・実験両面から取り組んでいます。

まず実験面ですが、学生時代の私は数理工学という環境にも助けられて、理論一色の研究を行っており、実験というものに関わることはほぼ皆無でした。しかし、新たな所属はロボコンで有名な学科であり、学生もそれを期待して入ってくるところがあります。学生へのサービスも教員の重要な仕事であることに加えて、理論一色の研究に限界を感じつつ あった私は、実験にも積極的に関わってみることにしました。あまり戦力になれているとは言い難いですが、これを通じて初めて見えてきた世界がありました。それはロボコン好き達の作るチープな実験システムがオリジナリティと解釈され、国際の場で殊の外ウケるということです。つまり、理論レベルの高さで同じ山の最高峰を目指すのではなく、自分たちの持つ特徴を活かして違う山に登ることで優位を築くという方向性もあることに気づかされました。 現在は、豊富な資金力を有する海外の有力グループの作る実験に負けないインパクトを1/1000 程度の資金で達成することに喜びを感じながら日々研究をしています。

次に理論面について、学生時代にほぼ研究テーマを変更しなかったため、自分にとってこれが事実上初めてのテーマ変更でした。テーマ変更に際しては、過去の研究に新しいスパイスを振りかけるのが普通 だと思いますが、なぜかほぼゼロから組み立て直すことにしました。理論的枠組み自体が全く異なるため、勉強はもちろんですが、アイデアが出せるようになるまでには本当に苦労しました。一年半もの間、何も目ぼしい成果が出なかったと言っても過言ではありません。しかし、この苦労も含めて今では、いい経験であった、と感じています。例えば、最近開発した協調制御法では、合理的な選択に失敗を含む非合理な選択を加えることで、初めて全体最適の達成を証明できます。これを「いつも一直線に答えに向かうのではなく、回り道と学習を繰り返しながら緩やかに望ましい方向に向かうべき」と解釈すれば、 ここでの経験は最後に全体最適にたどり着くための学習の過程であったと確信を持つことができます。加えて、実は現在、環境・エネルギー分野に資する理論や方法論の確立を目指した研究へと、再度の研究テーマの変更を迫られています。しかし、一度経験したことですので、取り乱すこともなく粛々と新たな課題にチャレンジすることができています。今度はうまく立ち回れると自分自身に期待しつつ。

(東京工業大学大学院理工学研究科 機械制御システム専攻 助教)