金属材料の塑性加工と成形シミュレーション

浜 孝之

浜氏私は2004 年3月に早稲田大学理工学研究科を修了後、同10 月にエネルギー科学研究科エネルギー応用科学専攻に着任しました。着任以来、金属材料の塑性加工および塑性力学に関する教育・研究に従事しています。特に金属板材の成形について理論および実験の両面から研究しており、中でも成形プロセスをコンピュータでシミュレーションするためのプログラム開発に取り組んでいます。

金属材料の塑性加工と聞くと、時代遅れのローテクと思われる方も多いでしょう。しかし実のところ、塑性加工はものづくりの基盤技術であり日本が世界に誇る技術分野なのです。例えば金属板材の成形は、自動車をはじめとする輸送機器からパソコンなどの電化製品に至るまでその製作に欠かせない技術であり、また日本の技術レベルは世界をリードしています。そしてその技術開発を支えているのが、数値解析技術です。近年では環境問題への対応から、板材成形分野でも薄肉構造部材の軽量化を目指して新素材の活用や成形技術の高機能化が求められています。このように新しい技術開発を押し進め、軽量化へのブレイクスルーを起こすために、数値解析技術の担う役割がますます大きくなっています。

私はもともと学部生時代から塑性加工の研究に携わっていましたが、数値解析の研究に携わるようになったきっかけは大学院生時代に(独)理化学研究所で研究する機会が得られたことでした。お世話になったプロジェクトでは、ものづくり支援を目的とした新しい形状モデリング手法とそれを援用した数値解析技術などの開発を行っていました。その中で私は、塑性加工解析技術の高精度化と高機能化を目的として、液圧を利用した塑性加工に関する解析プログラムの開発、また新しい形状モデリング手法を活用した接触解析技術の開発に取り組みました。国内外の著名な先生方に徹底的にご指導いただいたこの時期は、何事にも代え難い貴重な経験となりました。この時のご縁により、(独)理化学研究所とは現在でも共同研究を続けさせていただいています。

最後に最近の取り組みを簡単に紹介します。塑性加工解析では通常、素材の巨視的な変形挙動を数式化してプログラムに組み込みます。一方で、例えばマグネシウム合金のように環境問題への対応から最近注目されている低密度材料は、それまでの材料とは変形挙動が大きく異なり、また数式化が困難であるという性質を持っています。そこで最近では、実験によるマグネシウム合金板の変形特性の解明と、結晶レベルの変形に基づいて巨視的な変形を予測するマルチスケール解析手法を用いた変形挙動のモデル化に取り組んでいます。このように理論と実験の両面からマグネシウム合金板の変形特性を明らかにすることで、マグネシウム合金の利用拡大とそれによる環境負荷の低減に貢献できればと考えています。また以上の研究を通して学生には、研究の面白さと奥深さ、そしてお金を使って研究することの責任の大きさを伝えることができればと思っています。

(准教授・エネルギー応用科学専攻)

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国際会議にて研究発表中の筆者