失敗から学ぶ

聲高 裕治

聲高氏私は、1999年3月に大阪大学大学院・建築工学専攻を修了後、大成建設株式会社技術センターで勤務し、その後、2001 年9月より京都大学大学院・生活空間学専攻(2003 年に建築学専攻に配置替)で助手を、2007 年4月より大阪工業大学・建築学科で講師・准教授を歴任し、2011 年4月より現職に着任しました。

この間、一貫して建築構造、特に事務所ビル・体育館・工場などに適用される鉄骨造の大地震に対する安全性について研究を進めてきました。なかでも、大地震時の建物の揺れを抑える役目を担う「座屈拘束ブレース」に関する研究は、 10 年以上継続的に取り組んでいるテーマです。

座屈拘束ブレースは、軸力を受けるブレース芯材のまわりを鞘のような拘束材で覆うことで、圧縮力を受けたときに芯材の座屈が拘束材によって抑制され、引張力を受けたときと同様に優れた性能を発揮することができるものです。座屈拘束ブレースは1970 年代に日本で発案され、1980 年代に建築分野で実用化されました。1995年の兵庫県南部地震の後、大地震に対する安全性を確保するニーズに応えるために免震構造や制振構造が増え始め、座屈拘束ブレースの適用実績が急増しました。2000 年頃からは国内の土木分野や諸外国の建築分野でも研究が始まり、現在では幅広い構造物に適用されるようになりました。

私が所属していた大成建設では、座屈拘束ブレースを製品化するための開発が1999 年にスタートし、当時新入社員だった私が構造実験を担当することになりました。学生時代に構造実験を計画した経験がなかったため、右も左もわからないまま上司や先輩に指導いただきながら研究を推進し、貴重な実験データを得ることができましたが、そのなかで2 つの失敗をしました。

1つめの失敗は、拘束材に覆われていない部分で芯材が座屈して、急激な耐力低下を引き起こしたことです。その後、ただちに原因を究明して追加実験を行い、この部分の設計法を新たに提案することができました。

写真22つめの失敗は、座屈拘束ブレースを接合している梁が大きくねじれて、座屈拘束ブレースの機能を喪失し、さらにはそれに伴って実験装置を壊してしまったことです。このような現象は、実際の構造物でも起きる可能性があることを知りましたが、ただちに設計法の提案には至りませんでした。その後、京都大学に異動し、2001 年から2007 年の期間に座屈拘束ブレースが取り付く部分の挙動を理論と実験から解明し、最終的には写真に示すような梁のねじれを生じさせないための設計法を構築することができました。

現在、これまでに進めてきた研究成果を含め、座屈拘束ブレースの設計法を日本建築学会から刊行される「鋼構造制振設計指針(仮称)」の一部にとりまとめる編集作業を行っています。当然、何事にも失敗をしない方がよいのですが、研究には失敗はつきものです。今後もこれまでと同様、失敗から学んだ経験と知識を活かし、来たるべき大地震に対して安全な建物を設計するための提案が行えるように、実験と解析から精緻に研究を進めていきたいと考えています。

 

(准教授・建築学専攻)