「光を自由自在に取り扱う」

石﨑 賢司

石崎私は、2012年4月に電子工学専攻の助教に着任し、新たな光科学の開拓、光技術の開発を目指しながら、教育・研究に従事しています。特に、光ナノ構造(光の波長程度あるいはそれよりも小さな構造が人工的に組み立てられた構造)による、光の自在な取り扱いの可能性に注目しています。

光科学・光技術のさらなる発展により、現在そしてこれからの社会は、より便利に、より豊かになるものと考えられます。省エネルギー・創エネルギーは喫緊の課題ですが、光による高密度低消費電力の情報・エネルギー配線や、太陽光を利用した高効率な発電などは、その解決に大きく貢献すると期待さ れます。このような展開に向けて、光を、思い通り に自由に取り扱えるようにすることが重要です。

これまでの研究では、立体的な光ナノ構造を利用 した光の操作について検討を行ってきました。ものを創ることに興味があった学部学生時代、電子工学専攻の野田進教授の研究室で開発されていた最先端の3次元フォトニック結晶に魅せられ、その開発に参加させていただいたのがきっかけでした。3次元 フォトニック結晶は、半導体等の物質を、光の波長オーダの周期性をもつように立体的に配置した光に対する人工の“結晶”です。実際に数百nm オーダの寸法の構造を精度よく立体的に組み立てることは容易ではありませでしたが、自動で位置を決定しながらパターニングされた層構造を積み重ねていくシステムの開発などを経て、世界でも最高の品質と自負する立体光ナノ構造を創り出すことを可能にしてきました(写真右上)。

そのような立体光ナノ構造において、最近、数十ミクロン程の小さな領域の中で立体的に自在に曲げ伸ばし可能な、立体光配線を世界で初めて実現することに成功しました。その背景には、作製技術とともに、独自の発見と、それにもとづく設計がありました。当初、どうしても有限の厚さの結晶しか作ることができず、バルクというよりは薄い板状の3次元構造となってしまうことの影響を考察していたところ、結晶の表面に光がまとわりつくことができる(光の表面準位の形成)ということを実験的に発見しました。このとき、フォトニック“結晶”の名が示すとおり、複数の等価な結晶表面が存在し、その面の光学的な特徴もやはり等価であるということを明らかにしたことが契機となり、結晶の等価性を考慮しながら構造を設計すれば、結晶の内部で自由に光の経路(導波路)をつなぎ、立体的に光を配線することもできるのではないかと思い至りました(写真右下は、斜め方向への光導波路が結晶の中に形成されて いる例です)。こういった立体的な光の操作は、低損失・高密度の立体光配線として、省エネルギー・省スペースの光チップデバイスの開発へと繋がると考 えています。

最近の研究では、バルク状の3次元フォトニック結晶の中央部、つまり外界と隔離された空間で起こる未開の物理的・光学的現象の探索といった基礎的な検討や、微細な加工技術をベースとして光ナノ構造と光電子デバイスを融合することによる高効率太陽電池や高出力半導体レーザの開発といった応用検討も、開始しています。これらの研究を通して、ひとつを極めていく中で現れてくる新たな発見の面白さといった、研究の奥深さを学生にも伝えながら、教育に携わることができればと思っています。

(助教 電子工学専攻)

図

クリーンルームにて研究を行う筆者ら(左)と作成したフォトニック結晶(右)