固体表面上の分子の振る舞いを解き明かす

寺村 謙太郎

寺村先生画像私は、2004 年3月に本学大学院工学研究科分子工学専攻を修了後、東京大学にて博士研究員・特任助手としての勤務を経て、2006年12 月より本学次世代開拓研究ユニットに特任助手として着任、学部及び学科から独立して設置された同ユニット内で研究に取り組みました。2011 年に大学院工学研究科分子工学専攻に講師として異動し、現在は准教授として、田中庸裕教授が主催される研究室にて、研究および学部生・大学院生の教育を行っております。研究テーマは、学部時代より一貫して触媒化学です。

触媒は化学反応の反応速度を速める物質で、それ自身は反応の前後で変化しない物質と定義されています。また、触媒は化学平衡を変化させることはありません。現在の化学プラントで行われている反応の約9割は触媒を用いており、近代工業化学においてはなくてはならない機能性材料の一つです。触媒は、目的の化学反応をいくつかのプロセス(素反応)に分けて、さらにある特定の素反応を促進させます。つまり、触媒反応の活性化エネルギーは量論反応のそれに比べて低くなります。触媒は、触媒相と反応相の関係によって大きく二つに分類されます。一つは有機金属錯体に代表される「均一系触媒」、もう一つは固体材料に代表される「不均一系触媒」です。私は主に後者を研究しており、触媒相が固体、反応相が液体や気体の触媒反応を取り扱っています。不均一系触媒反応においては、触媒と反応物質が異なった相をもっているために、その相と相が接する界面においてどのような反応が起こっているのかを調べることが非常に重要です。気相や液相に存在する分子は、触媒表面と相互作用して捕捉されます。これを我々は吸着と呼んでおり、触媒反応が進行するきっかけとなります。触媒表面上に吸着した分子は表面反応によって反応中間体に変化し、最終的には生成物となります。生成物は固体表面から離れていき、触媒反応が終了します。これを我々は脱離と呼んでいます。つまり、不均一系触媒反応を理解するには、表面反応を含む吸着過程から脱離過程の化学的な過程を深く研究する必要があります。

現在の私の研究テーマは、人類の夢でもある人工光合成を達成可能にする触媒の設計です。一般には光触媒としてよく知られており、最近では太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換するための機能性材料として脚光を浴びています。先にも触れましたように触媒反応においては吸着・脱離過程が非常に重要です。私は光触媒反応においても光励起過程だけではなく、吸着・脱離過程が非常に重要であると考えており、固体表面上に吸着した分子の光活性化機構を明らかにすることにより、さらに高活性な光触媒を設計・開発できると予想しています。実際に、アンモニアを光活性化して一酸化窒素を無害化する反応においては、光触媒となる二酸化チタンの表面上に存在するアンモニア分子の吸着点の量や強度を制御することが重要であることを見出しました。また、反応中に生成する中間体の脱離過程が反応全体の反応速度を決めており、加熱によって中間体の脱離を促進させると全体の反応速度が向上することを実証しました。最近では人工光合成につながる二酸化炭素の光還元に興味をもって研究を進めています。私は二酸化炭素の光活性化においても吸着過程が重要であると考えており、二酸化炭素が化学吸着する場所を触媒表面上に作ることが活性向上の鍵となることを見出しました。

私の属する田中研究室の研究指針は、「基礎物性の理解なくして応用研究なし」です。つまり、触媒を用いた役に立つ物質変換だけではなく、複雑な表面反応を科学的に理解することを大きな目標にしています。この指針のもと、触媒化学の発展に寄与できるように日々教育および研究に今後も励んでいく所存です。

(分子工学専攻 准教授)