量子論の基礎と応用

宮寺 隆之

宮寺氏画像私は本学理学部を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻に進み、2001年3月に博士課程を修了しました。東京理科大学理工学部情報科学科の助手として4年間、産業技術総合研究所情報セキュリティ研究センターの研究員として7年間勤務したのち、2012年4月より現在の原子核工学専攻に所属しています。学部生のころは数学科と物理学科をふらふらしていましたが、数学科の先生がおっかなかったため(笑)大学院では物性理論の研究室に進みました。(物理の先生もおっかないことを知りませんでした・・。)その後は情報科学、情報セキュリティ関連と職が移り・・・と一貫性がないように見えますが、実は「量子」が共通するキーワードにあります。

量子論はミクロな物理を記述する理論として生まれて100年が経とうとしています。これまでさまざまな物質に適用され、さまざまな現象の説明や、工学的な応用を生み出してきました。このような「伝統的な」物理に関する研究に加え、近年、量子情報という研究が盛んになってきています。この量子情報ですが、その名があらわす通り、物理学(量子論)と情報科学を両親として1980年代に生まれた比較的新しい分野です。我々が現在用いている計算機(コンピュータ)は0と1をあらわす信号を処理して演算を行っている、いわばソロバンの親玉みたいなものです。量子計算と呼ばれるトピックでは、この「ソロバン」が量子論に従っていたならどういうことができるだろうか、ということを考えます。すると量子論の重ね合わせの原理により、0と1だけではなくそれらの重ね合わせ状態も許されることになります。この仮想的並列性をうまく用いるとこれまでの計算機に比べて本質的に速い計算ができることが知られています。これは、もし実現されれば現在使われている暗号方式(RSA)にとっては脅威となり得ます。一方、1984年に量子論は暗号通信においても、新しいプロトコルを生み出しました。測定は量子状態を変えてしまうという量子論の基本原理を用いると、盗聴者が何をしても破ることができない暗号ができるということが示されています。このBB84量子暗号と呼ばれる手法は光子を用いて既に実装され、製品化も行われています。

シンボル
compatibilityをあらわすシンボル

このように量子論が情報科学に「使える」ことがわかってきたのですが、この分野の特徴は不確定性関係や量子エンタングルメントなど(「もの」によらない)量子論の原理そのものがアルゴリズムやプロトコルに直結している点です。例えば、量子暗号では、盗聴者が量子論の法則に反さない限り何をやってもよい(どんな物質を使っても、どんな相互作用を用いても)という条件でも、不確定性関係により安全性が証明されます。この発展は量子論の基礎に関する再考にもおよび、``quantum physics”という分野を生み出しました。プレプリントサーバー(arXiv.org)への投稿数も、ここ10年で倍増している活発な領域となっています。

量子情報セキュリティの研究などを経て、原子核工学専攻の量子物理学研究室(ようやく「量子」が表にある所属!)に移り、現在の私の興味の一つはこの基礎的側面を見直すことにあります。最近の研究では、量子論における二つの操作が、どのような場合に「共存可能」(compatible)か、ということを考え、その構造的な特徴づけを探るとともに応用可能性を考えています。  

共同研究者たち
共同研究者たち

(准教授 原子工学専攻)