オランダの国際化とUWBレーダ

阪本 卓也

阪本氏画像私は2002年に情報学研究科における博士後期課程学生として超広帯域(UWB)レーダによる画像化手法の研究を開始し、日本学術振興会特別研究員PDを経て2006年より通信情報システム専攻の助手、翌年より助教として当該分野にて教育および研究を行って参りました。UWB信号は米国連邦通信委員会(FCC)において2002年に標準化され、それと同時に世界中でこの分野の研究が盛んになったという経緯があるため、非常に運よく絶好の時機に博士課程の研究を開始することができたことに運命的なものを感じます。当該分野は災害現場でのロボットへの応用や高齢者の介護など、我が国が取り組むべき喫緊の課題に必要不可欠な技術へと密接につながるため、社会的需要が高くやりがいのある仕事です。その一方、比較的新しい技術分野であるために、具体的な主流となる方式がいまだ世界的に決定していませんので、多くの理論、方法論および技術的可能性が次々に出現し、これ以上に刺激的な研究分野はそう多くないと思われます。

私は2011年から2013年までの2年間、日本学術振興会海外特別研究員としてオランダ王国デルフト工科大学へ派遣され、客員研究員として当該分野の研究に従事いたしました。私としては初めての長期の海外滞在ということで、少々気負って仕事を始めましたが全て杞憂でした。というのは、研究をするに当たり分野が同じであれば国内であろうと海外であろうとほとんど違いがないということがわかったからです。これは国内の教育・研究環境を諸先輩方がこれまで国際的に全く遜色のないレベルまで築き上げてこられたということの証であり、頭の下がる思いです。デルフト工科大学では、修士課程以上の教育および研究は全て英語でなされるため、多くの優秀な学生が世界中から集まり、驚くほど国際化した環境でした。私の所属した研究センターの教員や研究員もほぼ全員が外国人であり、オランダ人は数えるほどだけでした。学部教育も一部英語に切り替え始めており、現在はオランダ語もわかる教員が英語で講義することでオランダ語での質問に答えられるよう配慮されていますが、将来的にはオランダ語の通じない教員の講義へと科目数が拡大されていく予定です。このように我が国でまさに今取り組もうとしている高等教育の国際化という大きな課題に対し、オランダ王国のトップの国立大学がすでに10年以上にわたって本格的な試みをしてきたことは興味深く、その社会的影響を研究する価値は非常に高いと考えられます。

さて、研究分野の話に戻ります。UWBレーダで培われた技術は超音波や光といった別の分野にも応用されつつあり、多くの学際的な活動が盛んになっています。また、センシング技術はロボットや医療などの具体的な応用と結びつくと、それぞれの分野特有の要請や条件の中で技術自体を捉えなおす必要が生じ、このことで新たな視点が開けるという点も重要です。オランダ王国への派遣を契機に国際的な共同研究をいくつか開始しました。こうした学際的および国際的な活動により新たな視点を得ることは、自らの研究分野を鳥瞰する最良の方法であると思います。今後もUWBレーダ技術の魅力を多くの方に伝え、当該分野の研究に邁進して参ります。

(助教 情報学研究科通信情報システム専攻)