“自家”発電を目指して

野瀬 嘉太郎

野瀬先生写真母校である京都大学に戻ってきて、早9年になろうとしている。現在、40歳である私は、京大(学部・修士)→阪大(博士後期)→東北大(助手)→京大(助教・准教授)と3つの大学6つの研究室を渡り歩いてきた。(一方で、海外留学の機会には恵まれなかったが。)この間、様々な経験ができたことは今日の研究・教育活動に活かされていると感じている。実のところ、3 回生の時は大学院に進み、しかも博士後期課程に進学して、さらにアカデミアポストに就くなど思いもよらないことであった。それは、皆さんも同じかもしれないが、4回生で研究室に配属されて以来、研究の面白さに取り付かれたからであるように思う。例えば、材料工学の中でも金属材料における研磨は組織観察を行う上で必須な作業であるが、当時、夜中に研磨をしているだけでも楽しかったのを覚えている。研磨作業は物理工学科材料科学コースの学生実験にも組み込まれているが、学生に指導する際、「自分は研磨のプロ」と言って、そのテクニックを見せつけることもある。また、下町の町工場を舞台にした最近の某テレビドラマで研磨の重要性を語るシーンがあるが、妙に親近感がわき、嬉しくなった。

その後、太陽電池材料の開発という材料工学の観点からエネルギー問題に取り組めるテーマに巡り合った。東北大時はシリコン系材料を扱っていたが、京大に戻ってきてからはゼロからテーマを立ち上げたいと思い、カルコパイライト型の結晶構造を有するリン化物半導体を太陽電池の新規光吸収層材料として応用することを着想し、現在進行中である。従来、太陽電池の研究は電気・電子系の研究室や電機メーカーが先導して行われてきた。その中に、材料系の研究者が入っていくことは、自分の勉強不足もあって難しい部分が多々あった。一方で、状態図(相図)や熱力学など材料工学の基盤となる学問は半導体材料においても有用であることを実感した。例えば、多元系半導体のバルク結晶成長に関しては、既報の状態図から情報を読み取るだけでなく、時には状態図を自ら作ることが結晶成長条件を最適化するうえで近道である。カルコパイライト型リン化物においてもこれを実践し、従来の数十倍の大きさの結晶を得ることに成功した。また、太陽電池のためのリン化物薄膜を作製するためには、リンの分圧を制御する必要があるが、マッチに用いられる赤リンを蒸発源に用いた場合は赤リン上のリン蒸気圧が高く、その制御が難しいことが知られている。そこで、錫とリン化錫の熱力学的平衡を用いることで、リン分圧を大気圧以下で制御できることを見出した。この技術のおかげで、我々の研究室ではリンの高い分圧に悩まされることなくリン化物に関する研究を遂行することができ、カルコパイライト型リン化物に関する研究においては世界でも数少ない研究グループの一つとなっている。以上の研究を基に、カルコパイライト型リン化物を用いた太陽電池を試作し、変換効率はかなり低いものの、発電させることができた。

近年、このような切り口の研究は、太陽電池材料開発の分野においても市民権を得てきており、自分の研究が少しは分野発展に貢献できているのではないかと感じられるようになった。

ちょうど最近、自宅を新築したが、太陽光発電はまだ導入していない。近い将来、自分の開発した太陽光パネルを屋根に載せるためである。(資金不足のためでもあるが。)その夢を実現すべく、これからも研究・教育に邁進していく所存である。

これまで様々な場所を渡り歩いた分、それだけ多くの方々のお世話になってきた。この場を借りて感謝申し上げたい。

(材料工学専攻 准教授)