ついに解けた!量子力学100年のミステリー ―”Der Alte würfelt nicht”―

立花 明知

立花先生写真いきなり専門的な話から始まって真に恐縮です。標題は、㈱化学同人の月刊「化学」、2016年12月号、50頁~57頁に掲載されたインタビュー記事(話し手 立花明知)の標題です。そのインタビュー記事の序文を、一部省略しつつ引用しますと、「副題の独語は、アインシュタインがボーア宛の手紙で記した一文であるが、一般的には『神はサイコロを振らない』と訳されている。この言説は、かつてボーアらとの論争でアインシュタインが量子力学の『確率解釈』への不満をあらわにした言説として有名だ。アインシュタインのこの内なる声を数学的なロジックをもとに解明できたという、革新的な論文を最近(2016年1月)に発表した科学者がいる。(後略)」となります。

黎明期当時(約100年前)の量子力学によれば、発生源から放出された電子や光子(『粒子』)は、如何に初期設定が同じであっても、(1)検出器スクリーン上の同じところに像を結ぶとは限らず、(2) どこにたどり着くかは確率的にしか決まらない、かろうじて(3)その確率分布だけは量子力学の波動関数で与えられるであろうと想像、ようするに思考実験、されていました。結像する事象をとらえて、これを波動関数の収縮と呼称します。 このようにして、粒子として観測されるまでは無限に広がった空間の確率分布の情報しか知りえない、因果律は成り立たず、あくまでも確率的にしか定まらない予知不能な確率的力学観が確立されました(図1参照)。

立花先生図1

図1. 予知不能な確率的力学観

量子力学は基礎科学として重要で、現代の様々な科学や技術に広く用いられています。にもかかわらず、二重スリット現象における基礎的動力学過程、すなわち、1粒の電子や光子が検出器のどこにたどり着くかを量子力学により時々刻々予言することはできません。その意味するところとしては、量子力学の創始者の一人であるボーアが主唱する「コペンハーゲン解釈」が広く受け入れられています。自然現象の解釈ならともかく、『理論の解釈』を必要とする状況に対して、『神はサイコロを振らない』として、量子力学の基礎的動力学過程にひそむ不完全さを指摘したのがアインシュタインであり、ボーアとアインシュタインによる一連の議論はボーア・アインシュタイン論争として知られています。コペンハーゲン解釈とは、量子力学の波動関数は確率論的な現象の記述に使われる、というものです。それに対してエヴェレットによる「多世界解釈」もありますが、いずれも理論の解釈問題です。量子力学による現象の記述の不可解さ、すなわちファインマン曰く『量子力学のミステリー』、は現代においても課題として残されたままです。

筆者は、予知不能な量子力学のミステリーとして知られる二重スリット現象を時々刻々予言できる理論を構築しました。まず、素粒子代数の数学的下部構造を与えるアルファ振動子代数を発見し、これに基づき光子、電子および陽電子のアルファ振動子理論を構築しました。次いで、アルファ振動子理論における時間依存繰り込みを定式化し、それを相対論的場の量子論のひとつである量子電磁力学(Quantum electrodynamics; QED)に応用し、QEDの漸近場によらない非摂動論的定式化を与えました。これを用いて、従来の非相対論的量子力学ではありえなかった双対コーシー問題とその解法を定式化しました。その結果、長年にわたり予知不能とされてきた二重スリット現象に関わる量子力学のミステリーを解消しました。双対コーシー問題を取り扱うことにより初めて、隠れた変数を議論することなく、初期波動関数を全く同じにそろえても違った結果が決定論的に導かれます。二重スリット現象に関する約100年間にわたる量子力学のミステリーは、解けます。二重スリット現象で観測される干渉パターンは、双対コーシー問題の解として与えられます。それは、予想に反して量子力学の波動関数では再現できません。量子力学の波動関数で与えられる干渉パターンは、真の干渉パターンとは似て非なるものです(図2参照)。

 

立花先生図2

図2. 実験的に検証可能な決定論による量子力学二重スリット現象ミステリーの解消

我々のまわりの世界を眺めれば絶えず変わりゆく多様な運動が認められます。その変化するうわべを一枚めくればそこには非人格的な科学的真実があります。量子力学は実験的に検証不可能な非決定論という基本原理の上に建設されました。量子力学の波動関数とその確率解釈なるものを用いて『ふたを開けて見るまではわからない』というごくごく普通のあたりまえの感情に訴えかけるなどして、我々は約100年にわたりポスト真実(post-truth)の影にあざむかれ続けてきたのではないでしょうか?

量子論における予知不能な力学観の終焉と新しい時代の到来です。実験的に検証可能な決定論という認識が確立されました。粒子数非保存という認識のもとで双対コーシー問題を時々刻々解けばよいのです。その計算アルゴリズムは根源的な自然存在を表すアルファ振動子理論によって与えられます。

京都大学の新世代学徒に向けて一言のべます。自然の多様性に共通する検証可能な決定論に立脚した新しい時代がひらかれました。その認識の上に立って初めて見えてくるものがあると思います。各自ひとりひとりが学問の府である大学という環境を支える基礎研究を大切にしてください。大学における基礎研究の根幹には真実の探求があります。京都には主知主義(intellectualism)をはぐくむ力があることを信じて勉学に励んでください。

(名誉教授 元マイクロエンジニアリング専攻)