ナノ光ファイバを用いた量子情報技術の実現に向けて

髙島 秀聡

髙島先生写真私は、2015年5月から、電子工学専攻の助教として、教育に携わりながら、量子情報技術に関する研究を行っています。量子情報技術とは、ミクロな世界で観測される「量子力学的効果」を利用した、新しい情報技術です。現在さまざまな研究が行われていますが、特に、従来のコンピュータよりも圧倒的に高速な量子コンピュータや、盗聴が不可能な量子暗号通信などに関する研究が注目されており、世界中で盛んに研究が行われています。

光は、光子と呼ばれる粒子からできています。この光子を、原子やイオン、人工原子と呼ばれる半導体量子ドットなどの単一発光体に入力し、コヒーレントに相互作用させることで、量子コンピュータや量子暗号通信などを実現することが可能です。これらの実現をめざし、私は、ガラスを加熱溶融することで、直径数十マイクロメートルの球状に加工した光共振器である微小球共振器を用いた研究を、北海道大学大学院工学研究科修士課程の時から始めました。この微小球共振器内部では、光はガラスと空気の境界面で全反射を繰り返します。その全反射による損失は極めて小さいため、光は長時間(ナノ秒からマイクロ秒のオーダー)共振器内部に閉じ込められます。その結果、光子と発光体とを強く相互作用させることが可能になります。そこで、私は、当時、共同研究を行っていた京都大学化学研究所を訪問し、発光体のひとつであるエルビウムイオンをドープしたガラス薄膜を合成し、微小球の表面にコートすることで、エルビウムイオンドープ微小球共振器を開発しました。また、光子と単一発光体とのコヒーレントな相互作用は、周囲の温度に依存します。そのため、微小球共振器を、絶対零度に近い、4.2 Kまで冷却するシステムの開発も行いました。

最近の研究について簡単に紹介します。現在、光ファイバの一部を、直径数百ナノメートル(髪の毛の三百分の一程度)まで細くしたナノ光ファイバに着目し、研究を行っています。このナノ光ファイバは、表面に発光体を付着させるだけで、発光体から発生する光子を、30%程度の効率で光ファイバに結合させることができます。また、この効率は、ナノ光ファイバ上に光共振器を組込むことで、さらに向上させることも可能です。そこで、私は、単一発光体を結合させたナノ光ファイバや、ナノ微細加工技術を用いた、共振器内臓ナノ光ファイバ(図1)の開発に取り組み、量子情報技術への応用をめざした研究を行っています。

私がこれまで行ってきた「光」に関する研究に限らず、研究や開発を行うには、多くの電子部品や電子計測器が必要となります。そして、それらの仕組みを理解し、正しく使うには、電気・電子工学などの知識が不可欠です。このことから、私は、これまで行ってきた「光」を用いた研究の楽しさや奥深さに加え、電気や電子について学ぶ大切さについても学生に伝えながら、教育に携わっていきたいと思います。

(助教 電子工学専攻)

髙島助教図1

図 1  作製した共振器内蔵ナノ光ファイバの走査イオン顕微鏡像