寺本 勝行

略歴

2009年3月 京都大学工学部物理工学科 卒業
2011年3月 京都大学大学院工学研究科 修士課程航空宇宙工学専攻 修了
2011年4月 ソニー株式会社 入社
2018年10月 スタンフォード大学客員研究員(ソニーより派遣、1年間)
2020年3月 京都大学大学院工学研究科 博士(工学)学位を取得

メッセージ

寺本 勝行


私は修士課程を修了後ソニーに就職し、デジタルカメラ向け光学素子の開発に従事しています。修士の研究テーマ(改質による水素生成)と異なる分野に飛び込んだため、自身の関心の根源や仕事の意味など新社会人としての葛藤が生じ、学生時代に感じていた研究の意義を突き詰めるため会社とは切り離したプライベートでの社会人博士として研究室に戻ることを決意しました。もちろん、業務後や週末の時間を費やすわけですから、専門知識を深めること、また海外と仕事をする上で博士号を取得したいという実利面の動機もありました。 

博士課程への進学は企業への就職という進路を狭めるのではと不安がある方もいらっしゃるかと思います。社会人や米国大学での経験から、博士課程で鍛えられる能力、つまり「深く、かつ多面的に考え、挑み、新たな知見を創り出していく思考+洞察+構築力」はどのような場面でも極めて重要だと感じます。また、外国企業では博士号を持つこと自体が重要な意味を持ちますが、これは博士号が上述の能力を有する証明としての位置付けがあるためと思われます。こういった能力をじっくりと鍛える機会は利益を出す命題がある企業では一般的に難しく、私の場合は社会人博士という立ち位置でしたが、博士課程で得られたものは何物にも代え難いものです。更に言えば、「周囲の協力を得ながら事を進めていく遂行力」も実際の事を動かしていく上で重要ですが、海外や企業との共同研究など遂行力を育む上でも様々な機会が博士課程には広がっています。 

ある進路を選ぶことは他の選択肢を捨てることでもあり、判断は難しいものです。私自身は判断が正しかったか間違っていたかよりも、正しかったと思える結果を作っていく心持ちが前に進む原動力になると感じます。判断の結果として葛藤が生じた際は、噛み砕き、成長の糧として捉え、次の行動に移す。そこで得られた新たな気づきが必ず成長をもたらしてくれます。 

博士教育や社会人経験、また米国での研究員で得られた知見など、より広くまとめた記事を機械系同窓会の京機会に寄稿しております[1]。併せてご参照頂けますと幸いです。

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[1]  京機短信 No.340, 2020年4月p11-18 わたしの仕事(16)ソニー<https://keikikai.jp/wp-content/uploads/2020/04/tanshin_no340.pdf>

 2020年5月掲載)