桂キャンパスへの移転(機械理工専攻、マイクロエンジニアリング専攻、航空宇宙工学専攻、原子核工学専攻)

蓮尾 昌裕、小森 悟

吉田地区の狭隘化解消ため、1999 年に全学の要請により工学研究科が京都市西京区桂坂に移転する新キャンパス構想ができてから14 年後、また2003年の化学系専攻、電気系専攻の桂移転からちょうど10 年後のこの春、C クラスター総合研究棟Ⅲ(以下、C3 棟)に物理系4専攻が移転しました。豊かな自然環境と景観、最新で清潔な建物とその管理のもと、気持ちを新たに教育研究がスタートしています。ここでは、物理系4専攻移転の経緯を振り返りながら、皆様に移転報告をさせていただきます。

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C クラスタープロムナードから見上げるC3 棟

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C3 棟4階からのB クラスターと京都南部の景観

2006 年の地球系専攻の桂移転以降、工学研究科として残すは物理系専攻のみとなっていたのですが、国の財政事情もあり、その後しばらく動きがありませんでした。しかし、2009 年に物理系専攻および工学研究科RI 施設の桂キャンパス移転についての調査費がつき、実施方針が同年3月24 日に公表される運びとなりました。2012 年の移転に向けて、物理系専攻(機械理工学専攻、マイクロエンジニアリング専攻、航空宇宙工学専攻、原子核工学専攻、材料工学専攻)および工学研究科RI 施設では、急遽キャンパス移転に対応することになりました。

移転事業の形態としては、工学研究科では地球系専攻に次ぐPFI(Private Finance Initiative)事業で、PFI 事業では移転建物のコンセプトの提案から設計・建設、さらには運営・管理(2023 年度末まで)まで事業者が主体となって行います。さらに建物内にBOT(Built Operate Transfer)方式とBTO(Built Transfer Operate)方式が並存する試みであり、まずそれらの勉強が必要となりました。また、予定された建設面積には当初予定になかったレンタルスペース等が含まれたことにより、物理系全専攻が必要とするスペースが大幅に不足したため、当時の施設部長らとの交渉の結果、苦肉の策として材料工学専攻には吉田キャンパスに残ってもらうことになりました。さらに、最大の懸念事項として、経費負担の問題がありました。これまで国立大学(現在の国立大学法人)のキャンパス整備の費用は全額国の負担だったのですが、今回の物理系FPI 事業では国と大学のほぼ折半という新しい形が取られました。実は大学側の経費をどう負担するかについて十分に詰められておらず、その調整にも多くの時間と労力が割かれることになりました。最終的に、当時の財務・産官学連携担当理事および施設・情報担当理事と工学研究科との間で覚書を結ぶことにより、移転に向けた実質的な作業が進むことになりました。物理系専攻移転WG が物理系内の大枠の調整を図りつつ、施設環境部施設企画課と物理系専攻・RI 施設利用関係者でとりまとめた要求水準書(案)が、2009年6月29 日に公表され、事業者の公募が始まりました。

2つの事業連合からの応募があり、大学が設置した京都大学(桂)総合研究棟Ⅲ(物理系)施設整備事業に係る提案審査委員会において、費用対効果を考慮した評価が実施され、2010 年2月8日に現在のPFI 事業者(大林組、東急コミュニティー、昭和設計、日米クック)が選定されました。PFI 事業者からの提案は、建物の随所に研究者の交流を積極的に図る仕掛けが施された野心的なものでした。2010年夏からは建物の詳細設計に向けたヒアリングがPFI 事業者により行われ、各室の配置や仕様に関して、詳細な検討を行いました。特に、当初想定していなかった建物への寄り付き道路(サービスヤード)とそのフロアとの異なる地面レベルへの対応、キャンパス内の外壁面の統一化、地球系(C1棟)・建築系(C2棟)への大型トレーラーによる物品搬入ルートの確保等の必要性が明らかになり、地球系・建築系の先生方、特に門内輝行 教授、竹脇出 教授から貴重なご意見・アドバイスを頂きながら、対応を進めました。また、物理系専攻移転WG の山本克治 教授には、それらの対応に伴う建物形状変更の調整に大変な尽力をいただきました。さらに、RI 施設の住民説明については高木郁二 教授らにご対応いただきました。

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C クラスターの航空写真。周りに住宅地が広がる。手前の建物群がC3 棟。各建物の高さが斜面の傾斜に沿っている。

C クラスターは住宅地に近いことから景観等に配慮した半地下構造となっており、C1、C2棟同様C3 棟でもサービスヤードから直接アクセスできる地階が実験室フロア(地下2階:工学研究科RI 施設、地下1階:物理系専攻実験室)、小規模な建物10 棟を渡り廊下で連結した地上階が講義室、ゼミ室、事務室、教員室や大学院室等の居室のフロアとなっています。

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半地下構造の実験室フロア。各建物回りの道路がサービスヤード。

講義室として、170 名を超える収容能力があり、遠隔会議機能を含むAV 設備の充実した大講義室や、各机でパソコン接続が可能な講義室、吉田キャンパス等との遠隔講義が可能な遠隔講義室等を設置しました。ゼミ室は、定員を最低20 名確保することとして大中小の17 室設置し、そのうち大ゼミ室1室は間仕切り壁により2室分離可能にして、多様なニーズに配慮しました。木調と白色系統が融合した明るいエントランスホールはガラス張りの事務室に面し、広い空間を演出しています。人溜まりとなる廊下の十字路付近にはPFI 事業者提案による情報交換の場(インテリジェンス・ジャンクション)が設置され、その一部では電子掲示板により物理系専攻等の各種最新情報を提供しています。

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遠隔会議も可能な大会議室

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様々なレイアウトに対応可能な遠隔会議室

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明るいエントランスホール。左手奥に隣接するカフェテリアが見える。

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インテリジェンス・ジャンクション

異なる学問分野間の交流を推進する桂キャンパスのコンセプトを踏まえ、研究室の垣根を超えた共通実験室を多数設置しました。具体的には、クリーンルーム、顕微鏡室、バイオメカニクス実験室、化学処理室、共通計算機室などがあります。また、「ものづくり」の教育と研究支援の場である機械工作室も大部分が吉田から桂に移転しました。それらの効率的かつ公正な運用を行なうため、共通スペースWG を設置しました。

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クリーンルーム。奥にイエロールームも備える。

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顕微鏡室

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機械工作室

また、C3 棟の一部の実験室と居室には、PFI 事業者が運用する有料のレンタルラボ・オフィスがあります。皆様も是非ご利用を検討ください。同じくPFI 事業者の収益事業としてカフェテリア「ソレイユ」が営業されています。オープンテラスを有した開放感のあるお店で、リラックスした知的交流の場としても活用できます。昼と夕方に開店しており、ケータリングも可能で、学会等での懇親会や研究室コンパでも利用出来ます。また、1日300 食が収益ラインとも聞いていますので、積極的な利用をお願いします。

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レンタルオフィス

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カフェテリア「ソレイユ」

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カフェテリア横のオープンテラス

建物は2012 年9月末に竣工を迎え、その後、修士論文、卒業論文作成時と重なりつつも同年度内の引越し完了のため、綱渡りの日々を過ごしました。さらに、機械系専攻が吉田キャンパスの物理系校舎から引っ越した後すぐに、物理系校舎へ材料工学専攻および物理工学科の学部教育用の引越しを行う必要もありました。費用の節約のみならず、時間・労力の効率化のため、今回はメーカーによる据付調整が必要な高度な実験装置も一括して移転請負入札を行うという挑戦的な取り組みがなされました。日本通運が落札し、事業者はじめ多くの方のご協力で、何とか無事、移転を完了することが出来ました。また2013年3月末には、サービスヤードの一角に液体窒素供給設備が設置されました。

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液体窒素供給設備。C3 棟には窒素ガスの供給も行っている。

2013 年4月には新入生を桂で迎え、教育・研究がスタートしました。同年5月11 日には、西阪昇財務・施設担当理事をはじめとするC3 棟建設・移転に当たってお世話になった方々、地元桂坂学区自治連合会の役員の方々、物理系4専攻に関わる同窓会会長、物理系専攻の名誉教授、現教職員など約140 名の出席の下、実行委員長 小森悟、総合司会 黒瀬良一 准教授により「物理系4専攻桂キャンパス移転記念式典」を盛大に開催しました。記念式典、および引き続いて行われたC3 棟内の施設見学会、カフェテリア「ソレイユ」での祝賀会を通して、多くの皆様に本移転事業完了の喜びを共有していただけたと思います。

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記念式典でのテープカット

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祝賀会での鏡開き

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祝賀会での歓談の様子

新しいキャンパスでの交流の場を活用し、物理系専攻が大学院教育研究の抱負について語り合い、更なる発展を遂げるよう、教職員一同努力する所存です。皆様からのますますのご支援とともにご指導ご鞭撻をお願い申し上げます。

本移転は、実に様々な方々のご努力により完了に至りました。大学本部、特に施設部・財務部の方々には、物理系専攻や工学研究科の様々な要望に多大な配慮をいただきました。歴代工学研究科長と移転実施本部の皆様には献身的なリーダーシップを発揮いただきました。本PFI や引越し等を請け負われた事業者の方々には、いろいろな無理を聞いていただき、対応を賜りました。大学および工学研究科の各部署には、情報関係、遠隔講義関係、安全衛生関係、低温関係のインフラ整備にご尽力いただいた方々が数多くおられます。物理系内では、移転WG と移転準備室の皆様に、系内外の様々な調整にご苦労いただきました。さらには移転作業の円滑な遂行や講義室・ゼミ室、共通実験室等の設置のため、縁の下で貢献いただいた教職員や本来業務を越えて協力いただいた事務員の方々が多数おられます。本稿を書きながら、多くの方の顔が頭に浮かんでおります。こ
の場をお借りして、心より感謝申し上げます。

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C3 棟4階からの夜景

蓮尾 昌裕(教授 機械理工学専攻、物理系専攻移転WG 主査)
小森 悟(教授 機械理工学専攻、前工学研究科長)