光で可逆に変形する超分子構造体の開発と利用について

東口 顕士

若手2 私は2008 年8 月から合成・生物化学専攻の助教として、教育に携わりながら、超分子構造体の光反応に関する研究を行っています。超分子構造体は、溶液中のように分子がランダムに向いている状態では見られない、様々な機能を示します。応用に関して、有機物をどのように並べると機能を引き出せるか、という観点から役立っている場合が多く、液晶や有機EL、高耐久樹脂などにもその概念は取り入れられています。
 超分子構造体の外形は、環境のわずかな違いによって容易に変化します。超分子構造体を構成する分子同士の束縛は比較的緩やかであるため、配列の仕方はいくつも考えられます。実際には、その中で最も安定な分子配列をとります。ここで温度・酸アルカリ・電気など外部から刺激を与えると、周囲の環境が変わることで分子の安定配列が変化し、結果として超分子構造体の形状も変化します。
 光を外部刺激として用いる場合、利用の仕方は主に二通りで、光を吸収して発生する熱を利用するか、光を吸収して起きる化学反応を利用するかです。後者は、例えば人間の眼の中などでも起きているのですが、他の有機分子でも見られることがあります。
 有機色素の一種であるジアリールエテンは、光によって分子構造や色が変化する分子として知られています(図1)。無色体(左)は、複数の環構造同士を単結合で繋いだ形となっており、それぞれが自由回転可能なため、全体としては比較的柔軟です。
 ここに紫外光を照射すると着色体になりますが(右)、結合が新たに形成されることで自由回転できなくなります。このような分子構造の変化は、超分子構造体の分子配列へも影響を及ぼします。
光反応 ジアリールエテンを含む超分子構造体を作ったところ、色だけでなく形状も変化することがわかりました。光学顕微鏡で観察したところ、初期は球状構造ですが、紫外光を照射すると青く着色しながら分裂し、続けて可視光を照射すると無色に戻りながら球状構造を再形成しました。電子顕微鏡観察では、紫外光で繊維状構造に変化していることがわかり、元の球状構造との相互変換に由来する現象であることを突き止めました。
 また繊維状構造を水中に多数発生させると、他の物体の運動にも影響します。光を吸収して発生する熱と光化学反応を同時に利用することで、光を照射している場所にマイクロビーズを集めることに成功しています。また偏光紫外光を用いることで繊維状構造を一方向に並べることも出来、その環境下ではマイクロビーズの運動性に偏りが見られました。私はこのように、分子サイズのわずかな形状の違いを、ナノメートルサイズの配列の違いへ、そしてマイクロメートルサイズの超分子構造体へ拡大させ、それによって初めて現れる変形や運動といった機能性を制御し、新しい技術を生み出すべく研究を行っています。

(助教 合成・生物化学専攻)