着任のご挨拶

多幾山 法子

多幾山 法子はじめまして、多幾山法子と申します。2009年8月1日、工学研究科建築学専攻建築保全再生学講座の助教に着任致しました。

私は現在、主に歴史的建造物の保全再生をテーマとして、伝統的な木造建築物や組積造建築物を対象とした耐震補強に関する研究を行っています。京都には伝統のある神社仏閣や京町家といった木造家屋が多数ありますし、この京都の地で京都にふさわしい研究テーマに携われることを誇りに感じると共に身の引き締まる思いです。

京都のみならず国内には、歴史の深い建築物や伝統建築物群保存地区が多く存在しています。近年では、国や多くの団体が、地域や文化のシンボルとして、これらの保全再生に向けた取り組みに力を入れています。また、文化財保護法による登録制度の拡充に伴い、着実に登録数が増加している一方、南海・東南海地震のような巨大地震の発生確率が高まっていることを踏まえれば、これらの保全再生に必要不可欠な耐震性向上に関する関心は今後とも更に高まると予想されます。

着任のご挨拶こうした背景を受け、当研究室では、国内の伝統建築物群保存地区や地域型木造住宅の調査を継続的に行っております。これまでの実績としては、京都の社寺建築や京町家、山口県の萩、三重県の伊勢、鳥取県の黒坂、高知県の吉良川、長野県の木曽平沢・奈良井など10 地区以上が挙げられます。私が着任した昨年度は、京都府南丹市美山町にあるかやぶき民家を対象として耐震調査を行いました。また、国内に留まらず国外においてもアジア地域に現存する文化財や伝統建築物を対象とした調査も行っています。昨年度は、インドネシアの伝統木造住宅Pendapa とMangkunegaran 宮殿の構造的特徴を把握するため、ジョグジャカルタに赴き現地調査を行いました。また、耐震性を明らかにすることを目的とし、その特徴である接合部構造を模擬した架構実験を行い、その成果を国際会議にて発表致しました。現在は解析を通じて、架構実験の再現性を確認しています。

また、国内には、木造建築物の他に組積造建築物にも歴史的な建築物が多数存在し、その荘厳な佇まいから博物館など公共施設への活用が望まれています。しかし、無補強の組積造建築物は、地震発生時には面外方向へ崩壊する事例が多く、被害防止へ向けて耐震性を確保することが重要です。また、歴史的であるという観点から、極力外観を変更しない耐震補強に対する要望が高く、適切な補強設計法が構築されていないのが現状です。

こうした背景を踏まえて、現在、歴史的組積造建築物の保全再生への第一歩として、国内にある数棟の組積造建築物の調査を行っています。予てより歴史的組積造建築物の保全再生に興味を持っておりましたので、今後この分野で活躍すべく精進する所存です。

着任して1年が過ぎようとしておりますが、今後もご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。

(助教・工学研究科建築学専攻)