No.44 (2005.10) / 紹介 / 流域圏総合環境質研究センターの設置について

流域圏総合環境質研究センターの設置について

流域圏総合環境質研究センター長 武田 信生

1. はじめに

平成17年4月1日、琵琶湖畔大津市由美浜に立地する環境質制御研究センターが改組され、新たに流域圏総合環境質研究センターが設置されるところとなった。当研究センターは、流域全体の大気環境・水環境・土壌環境を対象とし、環境質に影響する物質の発生予見・動態把握・評価・制御・管理に関する基礎および応用研究を総合的に進展させるとともに、地域環境問題を解決するための人材の育成およびそれに必要な管理技術を研究開発することを目的としている。さらに、これまでの基礎的研究実績を生かしたアジア圏の大学間での遠隔教育ネットワークの構築や国、地方公共団体、民間実務者の招聘、共同研究などを通じて研究成果の発信や普及を積極的に進めていくことを目指している。

2. 設置目的

安全・安心への欲求は必然的に、より高度な環境の質を求める社会的ニーズの増大となって現れているが、一方において環境質を脅かすリスク要因はむしろ増大してきている。そのことにより、環境質の制御に加え、将来を予見し、これを管理することが重要となってきている。このような状況はわが国に限らず世界的な傾向であり、途上国における開発と安全な飲料水の確保との関係に典型的に現れてきている。安全な水の確保のためには流域圏を総体として管理する必要性が強く認識されるようになってきているのである。これは、ヒトを取り巻き、ヒトの生命にとっての基盤をなす大気環境、水環境、土壌環境はそれぞれが単独にあるのではなく、相互に密接に関係しあっていることからも理解することができる。

従来、環境質制御研究センターにおいても環境リスクの制御に関して世界的に認知される研究が進められてきたが、上記の社会的な要請から、より一層幅広い研究・教育体制が必要であることが明らかになってきた。これに対応するための改組ということができる。

当研究センターでは、図―1に示すように、これまでの個別汚染源を対象としていた研究の場を流域圏全体に広げること、また個々の物質の影響をみていたことから、要因物質を総合的に把握することを目指している。このため、より総合的な分析と評価手法の構築、環境中の動態解明とそのモデルを開発し、予見を含めた総合的流域管理・監視技術とシステムの開発を目指すものである。

さらに、地域環境問題を解決するための人材の育成およびそれに必要な管理技術を研究、開発するため、行政や研究組織への学生の派遣研修とセンターでの教育・研究を行う予定である。環境質制御研究センターの実績を継承発展させ、環境質分野での世界的先端研究をリードするとともに、教育においても講義・研究指導・留学生の受け入れと支援を積極的に行うことにしている。

流域圏総合環境質研究センターの設置について

図-1  流域圏総合環境質研究センターの目指す総合的流域管理研究

3. 設置経緯

前身である環境質制御研究センターは、環境質制御、環境質評価、環境質緩和の3つの分野から構成され、文部省(当時)により10年間を年限として設置が認められ、平成7年4月1日に発足したところである。平成15年11月、外部委員4名を含め、環境質制御研究センターの自己点検外部評価を行い、平成16年3月に最終報告書を作成した。平成16年6月には文部科学省へこの自己点検外部評価結果を報告し、今後の展開・改組についても説明を行った。本学企画委員会における審議を経て、平成17年2月、改組が認められた。この中で、センターの独自性の明確化や他部局・他機関との連携による研究体制の一層の充実が求められた。

このようにして発足した当研究センターは平成17年4月27日、辻文三副学長、荒木光彦研究科長ご臨席のもとで、国、滋賀県、大津市をはじめとした行政機関の方々にも参加いただき、開所式典が執り行った(写真-1)。

流域圏総合環境質研究センターの設置について

写真-1 流域圏総合環境質研究センター開所式典にて銘板除幕式(平成17年4月27日)

4. 体制

当センターは、以下の3つの分野から構成されている。

【環境質管理分野】藤井滋穂教授、清水芳久助教授
環境質に関わる新規成分の定量・評価方法を開発するとともに、環境質の管理(低減化・維持)に関わる技術的、政策的方法を探求する。また、環境質の劣化あるいは改善に関する対策と効用に関する統合的マネジメントを研究する。
【環境質予見分野】田中宏明教授、山下尚之講師、田中周平助手
環境質に関わる成分の環境中での動態を把握し、その反応・移動機構を明らかにするとともに、その将来的な動向を予見する技術を開発する。特に、すでに一部で顕在化、あるいは顕在化する可能性のある環境問題を国、地方公共団体などと連携しながら把握、予見し、取り組むべき研究課題を考究する。
【環境質監視分野】(外国人研究員ポスト)Benito Marinus(米国、イリノイ大学教授、平成17年4~7月)、Venkata Mohan(インド、インド科学工学研究所研究員、平成17年9~12月)
環境質に関わる成分の生態系および人に対する影響を評価し、リスク管理を行うとともに、それを監視する技術について研究する。とくに、途上国を含めた世界的に共通な地域環境問題を監視する。

このような教育・研究活動を展開する施設は琵琶湖畔にある。施設は2,484 ㎡の敷地に建つ実験棟、旧研究棟、新研究棟などからなっており、現在延べ床面積は1,200㎡弱である。このうち、200㎡強のスペースが室内パイロットプラント設置の場所として利用でき、さらに、琵琶湖水の取水権を有するため、直接湖水をポンプにより取水し実験に利用できることや、大津市水再生センター(下水処理場)に隣接し、試料採取のパイプラインが通じているために、下水や処理施設の調査、実験を大津市と連携して実施できる地理的な強みを持っている。

5.センターの活動状況

当研究センターでは、平成17年9月1日現在、DC10名(うち留学生7名), MC12名、学部学生9名の計31名が配属され、研究生1名(留学生)とともに研究活動を行っている。

国際交流分野では、日本学術振興会(JSPS)の助成による京都大学とマレーシアとの、また中国との拠点大学交流プログラム(JSPS-VCCおよびJSPS-MOE Core University Program)において主要メンバーとして貢献している。

また、平成16年からはじまった文部科学省大学改革推進補助金による「国際連携による地球・環境科学教育―アジア地域の大学との同時進行型連携 講義の構築と実践―」において学術情報メディアセンターと連携して地球・環境科学についての「同時進行型連携講義」をマラヤ大学、清華大学と共同で推進している。将来的には、アジア地域における教育連携ネットワークの構築を目指している。この取組により、本学学生にアジア地域の学生と同時進行的に講義を受講させることができ、国際感覚豊かで実際的英語能力を持つ卒業生を輩出できるものと期待されている。また、アジア地域の大学院レベルの教育に日本が主導的立場で大きく貢献できると考えられている。

当研究センターには先述のとおり、外国人研究員ポストがあり、環境質制御研究センター時代以来、Stockholm Water Prizeを受賞されたデンマーク王立薬科大学Jorgensen教授をはじめ、世界的に著名な研究者を客員教授として迎えてきている。学生への教育・研究へのアドバイスなどのほか、帰国後も共同研究の推進や本学学生の留学受入など様々な形で大きな貢献を得ており、当研究センターの国際展開の上で、きわめて重要となっている。

日本学術振興会および米国国立科学基金(NSF)からの助成を受け、RO, NFおよびUF膜ろ過による微量有機汚染物質の除去について、これまでコロラド大学ボールダー校と、また電子線照射による汚染土壌浄化方法の開発について韓国建設技術研究院と国際共同研究を実施している。また文部科学省からの助成を受けタイ・コンケン大学とメコン川流域の水系リスクに関して国際共同研究の実施を始めている。さらに、環境省および英国環境食料内務省 (DEFRA)の助成を受け、日英内分泌撹乱化学物質共同研究(排水由来エストロゲン作用の効率的な削減と効果評価に関する研究)の国際共同研究を行っているところである。これらの国際共同研究は、国際的で先端的な研究拠点化と流域管理研究の中核となるものであると期待されている。

6. おわりに

当研究センターの施設は、琵琶湖と淀川水系を連結するきわめて重要な地点にあり、湖・川・海が一体となった流域に、森林、農地、都市、工業地が存在する流域研究には理想的な地域である。この地の利を生かし、また地域の関連機関と連携し、研究センターの使命を果たすため、教職員・学生一同チームワークよく研鑽している。今後とも各位のご支援・ご協力を引き続き強くお願いするところである。

(教授 都市環境工学専攻)