長尾前京大総長からの寄贈絵画

荒木 光彦

工学研究科大会議室(桂キャンパスBクラスター事務管理棟3階)の南側壁に140号特寸の大きな絵画が掲げられている。「N先生像」と題する画で、長尾先生が総長室の会議用大机の前に柔らかな表情で坐っておられる。両手は机上、その左手には眼鏡、前にはノートパソコンがある。パソコンを操作するでもなく、その画面を注視するでもなく、瞑想しておられるような雰囲気がただよっている。しかしよく見れば、細い目はしっかりと開かれ、パソコンの中、さらにそれを通り抜けて遠い未来を見据えておられるように思える。画面左上には、長尾先生が記念に作られた「学則在徳而久」(学はすなわち徳にありてしこうして久し)、真」の皿が掛けられている。この丸く白い皿が、満月のごとく画面全体を照らしている。

長尾前京大総長からの寄贈絵画

この画は辰巳寛画伯の筆によるものである。辰巳画伯は長尾先生の御親戚であり、幼少の頃から先生をよく知っておられた。先生の総長退官にあたって、京大に残す長尾先生の肖像画を画かれたのも同画伯だが、それとは別にこの「N先生像」を製作された。そもそも肖像画とは、写真のなかった時代に、ある人物の姿形をなるべく正確に写しとることを目的として始まった。京大に残す肖像画はこの写真的目的を多分に強く有するもので、辰巳画伯もそれを意識して描かれたことであろう。しかし、長尾先生の人となりに触れてこられた画伯は、写真型の肖像画ではなく、長尾先生という人格を題材とした芸術作品としての肖像画を描きたいという創作欲にかりたてられたのではないかと推察する。

「N先生像」は平成16年第36回日展に出品され、各地の美術館での展覧の後、平成17年4月4日に大会議室に取付け、同16日に除幕式をとり行って披露した。日展出品作品としての「N先生像」に対して、高山淳氏は次のように評しておられる(抜粋)。

長尾前京大総長からの寄贈絵画「眼鏡を手に持って椅子に座ったスーツ姿のこの男性は、知的な雰囲気がある。……テーブルの面積が画面全体の半分以上を占めている。……単にテーブルを描きたかったのではないだろう。そこにはこの先生の人格をつくった長い時間というものの象徴的意味合いがあるように思われる。あるいは、この優れた人格にはなかなかたどり着けないという畏敬の念、そういった距離感もこのテーブルにあるように感じられる。……」

辰巳画伯について簡単に紹介させていただく。同画伯は昭和21年に奈良県で生まれられ、昭和44年に龍谷大学文学部を卒業された。在学中から、日本画家橋本明治画伯に師事し、昭和46年には日展に初入選された。その後、昭和54年日春展日春賞、昭和54年日展特選、昭和56年に日春展奨励賞を受賞された。昭和63年には2回目の日展特選を受賞され、平成元年以降日展無鑑査となって、毎年日展に出品してこられた。また、平成13年には日展審査員、現在は日展会員として活動しておられる。

このようなすばらしい画を製作していただいた辰巳画伯、およびその貴重な画を寄贈いただいた長尾先生に深く感謝する。

(教授 電気工学専攻)