物理探査と地球工学

白石 和也

卒業生白石画像物理探査は、直接見ることのできない地球内部の可視化に挑む工学である。その目的は、資源探鉱、地震防災、地球科学など多岐にわたる。構造物や材料の健全性評価、体内の検査などにも同様の技術が用いられることがある。例えば、石油・天然ガス探鉱では数km、防災調査では数mから数十km の深度が対象となる。地下探査では、調査する場所毎に地質条件や観測条件が大きく異なること、容易に答え合わせができないことが特徴である。そのため、観測事実であるデータから、処理や解析によって、地下に秘められた真実を導き出すのが技術者の努めである。私は、防災を目的とする反射法地震探査のデータ取得および解析の業務のほか、反射波イメージングや弾性波トモグラフィの研究開発を行う。多数の発振点と受振点の組み合わせについて波の伝播時間から速度分布を推定する弾性波トモグラフィにおいて、解析結果に対する信頼性を定量評価し地下構造との関係性を推定する研究1)はその一つである。

私が物理探査と出会ったのは地球工学科でのこと。橋梁、ダム、トンネルなどの構造物は人間が創意と工夫で自然に挑んできた証であり、土木工学は偉大だと感じた。1998 年入学当時は環境ブームでもあり、ローカルな環境衛生からグローバルな地球環境について考える環境工学には高い関心を持った。一方、まさに地球と関わりながら社会生活を支える根源的な工学だと感じ「資源のない社会で土木や環境を語ることもできまい」という極論に至った末、資源工学コースへと進んだ。そして、見えないものを可視化する技術への興味と、当時の芦田讓教授(現・名誉教授)と松岡俊文助教授(現・教授)の授業スタイルや人柄にも惹かれ、物理探査学を専攻した。大学院では、地震波干渉法2)を用いた地下構造イメージングや弾性波動伝播の数値シミュレーションなどをテーマに研究を行った。物理と数学と地学のバランス、観測データから数学的かつ物理的な法則に従って地下構造を描き出すことが、私にとって大きな魅力である。

物理探査技術者として働くいま、社会において地球工学の果たす役割を強く意識する。海に囲まれた少資源国にとってメタンハイドレートなどの海洋資源開発への期待は大きく、世界的にはシェールガス開発が盛り上がりを見せ、一方で循環型エネルギー開発への取り組みもいよいよ盛んである。東日本大震災以後、地震防災とエネルギー問題に対する世間の感心は高い。また、地球温暖化対策の一つである二酸化炭素地中貯留では、資源開発分野の技術が重要な役割を担おうとしている。物理探査の目的が資源を探すことから防災や環境のための定量的評価へ高度化し、これまで以上に精度や信頼性が求められる。社会に貢献する地球工学、その基礎を支える物理探査の技術者として今後も地道な精進を続けてゆく。

1) 白石ほか(2010):屈折初動走時トモグラフィ解析における初期モデルランダム化による解の信頼性評価,物理探査,63, 345-356.

2) 白石ほか(2008):地震波干渉法概説,地学雑誌,117, 863-869.

(株)地球科学総合研究所
京都大学博士(工学)