「42年をふりかえって」

工学研究科技術部副技術長 羽村 守

羽村 守1966年京都大学工学部金属加工学教室に就職しました。42年間お世話になりましたが、2008年3月をもって定年を迎えることになりました。

この42年間の主な仕事は、機器分析装置(原子吸光分析装置、発光分光分析装置)の保守・管理・運転に関わってきたのと学生実験等でした。分析に関わってきたきっかけは、1960年代の高度経済成長期に公害が深刻な問題になり、四大公害の一つである富山イタイイタイ病発生源対策に関わったことが始まりでした。1972年神岡鉱山に立入り調査を行い、その結果発生源対策研究班が結成されました。

その研究班は

  1. 神岡鉱山における排水対策に関する調査研究
  2. 神岡鉱山における排煙対策に関する調査研究
  3. 神岡鉱業所におけるカドミウム等の収支に関する研究
  4. 神通川水系における重金属の蓄積と流出に関する研究
  5. 神岡鉱山の廃滓堆積場の構造安全性に関する調査研究

の5つの研究班で、その内の「神岡鉱山における排水対策に関する調査研究」班に所属し、河川水、鉱山の廃水、土壌の分析等に原子吸光分析装置が大いに活躍しました。

1972年立入調査時、9ppbであった神岡鉱業所の排水中のカドミウム濃度は現在1ppb 台に下がり、同じく排水口から排出されるカドミウム排出量は、当時の35kg から今日3kg台に減少してきました。現在では、神岡鉱山の公害防止対策はかなり前進してきました。研究室においては、学生とともに現地調査はもちろん、公害問題ゼミ、技術史ゼミなどを開催して教育の一環として研究を進め、その成果を修士論文、学会投稿・発表などを行ってきました。その結果の一部を紹介しますと、

  • イタイイタイ病裁判後の神岡鉱山における発生源対策(上・下、公害研究)
  • 原子吸光法による鉱排水中の重金属定量におけるバックグラウンド補正(水曜会誌)
  • 水素化ホウ素ナトリウムを用いる水中微量ビスマスの原子吸光分析(水曜会誌、日本分析学会発表)
  • 河川低質における重金属の粒度別分布(水曜会誌)
  • 神通川水系におけるカドミウム汚染の現状(公害研究)などです。

また、原子吸光分析装置および発光分光分析装置を用いて、水溶液中における微量分析および鋳鉄の連携分析法の確立などを手がけてきました。その結果を金属学会で発表、日本分析化学学会に投稿および鋳鉄の成分管理マニュアルの作成にかかわってきました。

42年をふりかえってこの42年間いろいろなことが勉強でき、まさか学会へ研究発表、論文投稿などができるとは思っていませんでしたが、良い思い出ができました。42年間は長いように思いますが、なんだかあっという間に定年を迎える気がします。

最後になりますが、2007年度4月に工学研究科技術部が発足しました。技術部の仕事である夏期技術職員研修会が40名の参加で行われ、技術部が足を踏み出しました。これからは、のびのびと働ける職場環境作りに工学研究科技術部がその役割を大いに発揮して下さい。

(技術専門員・材料工学専攻)