“Love science” and “Without risk no adventure”

吉江 睦之

吉江 睦之私は、故藤田茂夫先生の御指導の下、1990年に電気工学科学士、1992年に電気工学専攻修士の学位を取得しました。企業に7年在籍した後、カリフォルニア工科大学(カルテック)大学院に再入学、2004年Ph.D. 取得、現在デューク大学で研究室を独立運営する立場です。ここデューク大学は、アメリカ合衆国東南部ノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パーク一角を成すダーラムにあります。研究テーマは光半導体結晶成長に始まり、現在ナノフォトニクスに移るも、一貫して光・物質相互作用を利用した応用物理及びデバイスに携わってきました。理工学分野で海外大学院留学する日本人が少数の状況の中、今回の「卒業生紹介」の依頼を受け、当人には自然な選択だが客観的には非典型的なキャリアパスを歩む例として、特に若い学生・研究者の何か参考になればと思い寄稿します。

幸い縁あって、現在までの研究キャリアの中、故藤田茂夫先生とカルテックのアクセル・シェラー先生という二人の素晴らしい師の指導の元で研究することができました。表題の言葉はそれぞれの先生から学んだ教訓です。学部在籍中、リベラルを良しとする環境で自由に学習し、修士時代は研究室で新規青色発光素子用の結晶成長・評価実験にあけくれる生活でした。藤田先生には「装置、研究そして科学を愛すること」を学びました。その後7年企業研究所で過ごした後、カルテックのPh.D. プログラムに入りましたが、この留学は科学者になるための大きな転機でした。若くもなかったため日本で就職先はもうないと決断前は不安であるも、考え抜いた後、自らを信じ最後はあっさり決断したのを覚えています。決断できたのは、いろいろな方との縁があったのはもちろんのこと、そしてまだまだ若かったと思います。長年特に熟考することなく当然と受け入れたことなど自らの思考を束縛する大きな一つの境界条件を取り去ったと思います。カルテックでは厳格な大学院授業・演習と精力的に高いレベルの研究をする学生・研究者のいる環境の中、科学プロセス-仮説と検証-を遂行する能力を強化でき、そして一線の独立科学者がリスクを可能な限り知った上、科学の最前線で未知の領域を開拓するという冒険に携わる姿を目の当たりにしました。

研究室を運営する今特に、表題にある通り、リスクのない冒険はないこと、好きだからこそ、日本を離れ科学分野で機会を求め冒険することができることを実感します。目指す“Independent Thinker”であることの難しさ、如何に深い考えなしに固定概念を受け入れ、自ら境界条件を課していること、また簡単に検証可能に見える仮説でさえ多くのリソースを必要とすることを痛感します。しかし、幸いなことに、科学という大きな知の世界はダイナミックに拡張するのを感じます。次世代を担う現在の大学生・大学院生が科学者・技術者として活躍する時代には更に科学の世界は拡大していることでしょう。昨日まで存在もしくは確認されなくとも今日実証されることが繰り返される科学技術において、師から得た二つの教訓は次世代のPioneer たる彼(女)らにも普遍のように思います。

(デューク大学電気及び計算機工学学科 Assistant Professor(電気工学科 平成2年卒業))