工学研究科附属「流域圏総合環境質研究センター」 (Research Center for Environmental Quality Management)

清水 芳久

清水芳久教授工学研究科附属「流域圏 総合環境質研究センター」(以下センター)は、滋賀県大津市由美浜の琵琶湖の畔にあり、隣に大津市水再生センター、近くにプリンスホテルがあります。吉田キャンパスからは、道のりで17km程の距離で、車では約40分(非渋滞時)で到着できます。電車・バス等の公共交通機関を利用した場合は、1時間程度のアクセスです。付近の琵琶湖湖岸は公園化され、良好な周辺環境が維持されています。センターは約2,400㎡の敷地に研究棟や実験棟などの施設を有しています。研究室面積は約240㎡、実験室面積は約580㎡であり、一人当たりの面積にすると(平均的学生・院生数30 名とする)、研究室面積8㎡、実験室面積19㎡となります。

流域圏総合環境質研究センター
流域圏総合環境質研究センター

センターは、昭和46年に工学部衛生工学科の「水質汚濁シミュレーション設備」として開設されました。当時、琵琶湖の重金属・PCB汚染、富栄養化、 水道臭気問題、流域下水道の建設など、水質汚濁関連諸問題が起こり、それに応えるべく滋賀県や大津市の援助と工学部衛生工学科の努力で設置されまし た。その後、社会情勢は一時環境問題離れが起きましたが、琵琶湖の水環境問題は飛躍的な改善が進んだとは必ずしも言えずに現在に至っています。

その後、14 年間の活動を踏まえて昭和60年に工学部附属「環境微量汚染制御実験施設」の設置(教授1、助教授1、助手1)に至りました。当時、琵 琶湖の地域的問題であった環境問題は、地球上のすべての湖沼やダム湖に共通する問題として認識されるようになり、現在では地球環境問題の中に琵琶湖 の経験、活動が活かされつつあります。「環境微量汚染制御実験施設」は10年の時限を条件に設置された施設でしたが、その成果が認められ、平成7年からは工学研究科附属「環境質制御研究センター」として拡充され、再出発をしました。定員は「教授2、助教授2、助手1、外国人客員研究員1」に増え、世界的な環境質(特に水環境中の微量な毒性物質)のリスクの制御に関する研究を実施してきました。「環境質制御研究センター」は、環境微量汚染 制御実験施設施設と同様に10年の時限を条件に設置された施設でしたが、その教育・研究成果が認められ、またより一層幅広い研究・教育体制が必要となったことから、平成17年に工学研究科附属「流域圏総合環境質研究センター」として改組され、現在まで、積極的な研究・教育活動を展開しています。

現代は、健康で文化的、かつ福祉に富んだより高度な生活の場や自然(即ち、環境質)を求める社会的ニーズの増大と、環境の質を脅かすリスク要因の 増大により、環境質に関してはその制御に加え、将来を予見・管理することが必要な時代となってきています。このことはわが国のみならず、世界的にも リスク低減が重要であり、なかでも途上国での水問題(特に飲み水と衛生問題)の解決が世界的な緊急課題です。この解決のためには、河川・湖沼流域全 体の広域予見と管理が不可欠です。また、教育機能の強化、産学連携や地域貢献活動の充実が求められ、研究、教育成果が目に見える形で実社会への還元が強く求められています。琵琶湖・淀川流域は、湖・ 河川・海が一体となった日本の代表的な流域の一つです。センターは、この流域内でも特に重要な琵琶湖沿岸にあり、湖・河川・海・森林・農地・都市・工業用地等が存在する理想的な教育・研究対象を持っています。

琵琶湖水導水ポンプ
琵琶湖水導水ポンプ

センターでは、琵琶湖の水を導水 ポンプで実験室内まで直接導水して研究に利用することができる設備も有しています。ロゴマークは、平成17年のセンター改組の際に、ロゴマーク琵琶湖の形をイメージしてセンターの教職員・学生でデザインしたものです。外枠の円は現在を超えて、将来にまで広がる研究への期待を意味し、色は琵琶湖周辺の自然環境をイメージして、青と緑にしました。

センターでは、最新鋭の研究設備を利用して、水環境・土壌環境・大気環境における質に影響する物質の発生予見・動態把握・評価・制御・監視・管理 に関する基礎および応用研究の総合化を図り、さらに、地域環境問題を解決するための人材の育成およびそれに必要な管理技術を研究・開発するため、行 政や研究組織への学生の派遣研修とセンターでの教育・研究(インターブリッジシップ)を行っています。 また、センターでの基盤的研究実績を生かし、マレーシアマラヤ大学および中国清華大学深圳キャンパスにある京都大学海外拠点の運営をセンター教員がつとめ、それぞれ「リスク評価に基づくアジア型統合的流域管理」と「21世紀型都市水循環系の構築のための水再生技術の開発と評価」といった国際共同研究の活発な展開を図っています。アジア圏の大学間での遠隔教育ネットワークによるe-learning講義も展開し、さらに、民間を含めた実務者の招聘、共同研究などを通じて、国、地方公共団体、民間との積極的な連携を図る中核組織を担っています。

センターは、環境質管理、環境質予見および環境質監視分野の3つの分野から構成されています。環境質管理分野は、環境質に関わる新規成分の定量・評価方法を開発すると共に、環境質の管理(低減化・ 維持)に関わる技術的、政策的方法を探求しています。また、環境質の劣化あるいは改善に関する効用と対策に要する負荷の統合的マネジメントを研究しています。環境質予見分野は、環境質に関わる成分の環境中での動態を把握し、その反応・移動機構を明らかにすると共に、その将来的な動向を予見する 技術を開発することを目標としています。特に、地域で既に一部顕在化、あるいは潜在的ではあるが顕在化する環境問題を国、地方公共団体などと連携して、把握、予見し、取り組むべき研究課題を考究しています。環境質監視分野は外国人客員教授からなる分野です。環境質に関わる成分の生態系および人に対する影響を評価し、リスク管理を行うと共に、それを監視する技術について研究しており、特に、途上国を含めた世界的に共通な地域環境問題を監視するための研究を実施しています。

具体的なテーマとしては、琵琶湖・淀川流域や東南アジア(特にマレーシア)の湖沼・河川流域のガバナンスを含めた統合的流域管理、湖沼や下水処理 水中の難分解性溶存有機物の機能評価、多様な生物が棲む水環境を目指した化学物質のリスク管理、水の再利用、衛生学的に安全な水環境の確保、健全な 都市・流域水循環系構築、現場への適用に重点を置いた研究と、毒性メカニズム解明、発がんメカニズム解明、バイオインフォマティス環境生物学の構築 などの基礎研究を両輪として研究を推進しています。

センターは研究のみならず教育充実も目標として活動しており、環境質管理分野と環境質予見分野は都市環境工学専攻の協力講座として大学院教育に加わり、学部教育でも地球工学科学生の卒業研究指導や学部科目の講義等で参加しています。また、センターに在籍する院生学生数は約40人ですが、常にヨーロッパ、アフリカ、東アジア、南アジア、米国などからの留学生が在籍し、国際的な雰囲気の中で活発な研究活動が行われています。また、外国に留学する日本人学生も数多くいます。環境質監視分野は外国人客員教授からなる分野であり、センターのみならず、関連専攻の教員・学生との共同研究や国際的教育の遂行などで、大きく寄与しています。

センターには、センター長と教員6人(教授2、准教授1、講師1、助教1、外国人客員教授1人)、研究員5人、非常勤職員5人、大学院生約30人が おり、研究・教育活動を行っています。外国人客員教授のポストは最低滞在期間3カ月という条件の下、環境質制御研究センターの設立当初から現在まで 14 ヵ国(米国、スウェーデン、デンマーク、オーストラリア、中国、ヨルダン、韓国、トルコ、インド、タイ、イギリス、イスラエル、台湾、マレーシア)から25名の研究者が来日しています。

センターでは、世界最先端の研究施設と設備をフル活用して、今後より一層の研究・教育活動を実施していくつもりです。

住所 大津市由美浜1―2
電話 077―527―6220~6224
FAX 077―524―9869
http://www.eqc.kyoto-u.ac.jp
アクセス
・JR 膳所駅から徒歩約 20 分
・京阪錦駅から徒歩約 7 分
・JR 大津駅からタクシー約 10 分
・名神大津インターから車約 10 分

(教授 流域圏総合環境質研究センター)

センター構成員
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