関係性の継承・発展からみた住宅・地域計画

前田 昌弘

前田昌弘助教「コミュニティ」という言葉が近年、ますます注目を集めています。特に東日 本大震災の被災地でみられたボランティア等の活動は、現代の日本においても共助の精神が健全に機能しうることを示し、その基礎となるコミュニティの重要性を私たちは改めて認識しました。被災地に限らず、町内会やNPO、社会的企業なども含めた広い意味での「コミュニティ」への期待は確実に高まっています。一方で、コミュニティは多義的で曖昧な概念であると言われ、それゆえに、何もかもコミュ ニティの問題として捉えられ、物事の本質が看過されるという危うさもあります。私が専攻する建築計画学分野においても以前から、「コミュニティ」という概念を安易に用いてはならないという風潮があったようです。それには、この概念が持つある種の危うさが関係していると思われます。

私自身、学部、大学院と京都大学で建築を学んできて、建築をつくる際の考え方にコミュニティを積極的に取り入れたことはあまり多くありませんでした。コミュニティは曖昧で不確かで、建築の計画・設計の拠り所とするには少し頼りないと感じていたからです。むしろ、建築の計画・設計に対するおそらく一般的なイメージと同じく、物と空間で構成されるシステムを中心として建築の計画・設計を捉えていました。そのような私が今は、視点を変えて、「コミュニティ」と「住宅・地域」の関係を研究のテーマとしています。

マイクロファイナンスの集会の様子
マイクロファイナンスの集会の様子

私がこのようなテーマに関心を持ったきっかけの 一つには、博士研究として取り組んだ2004年インド洋津波後のスリランカにおける住宅復興とコミュニティに関する研究があります。博士研究の中で、マイクロファイナンス(貧困層向けの無担保での融資)という仕組みを介して、津波被災者の生活再建に必要な資金と空間が、彼らに残された唯一の資源であるコミュニティ(人と人の関係性)によって再 形成されていく過程が明らかになりました。そのような過程に触れることで、コミュニティの役割をリアルに感じるとともに、多義的で曖昧であるからこそ、より厳密にコミュニティを研究したいと思うに至りました。

また一つには、私の博士後期課程の指導教員であり、現在の上司でもある髙田光雄教授との議論の中で、実践的なコミュニティ研究の方法論を学んだことがあります。西山夘三先生、巽和夫先生、髙田先生と連なる京大の住宅研究の系譜では、それぞれの研究者が独自のスタイルを持ちつつも、住宅を単なる物理的な存在ではない、「社会的な存在」として捉えるという点において一貫してきました。私も、このような研究環境において、コミュニティという比較的小さな「社会」から住宅を捉えるという現在 の研究テーマに導かれていったのかもしれません。 現在、研究室では住まい・まちづくりに関する様々な実践的な研究を通じて、現代社会における住宅・ 地域の再生のあり方を探求しています。

コミュニティにおける関係性の分析の例

コミュニティにおける関係性の分析の例

人と環境の関係は建築計画学において常に主要な関心ですが、私が重視しているのは、持続可能な地域運営を可能にしている(あるいは不可能にしている)「コミュニティ」(人と人の関係性)の本質とその継承・発展の方向性を問い、人々の関係性を起点 として「住宅・地域」(環境)を構想するというアプローチです。このようなアプローチは住宅計画に 関わる既存の研究枠組み(初期の住宅計画研究、環境行動論的研究、ハウジング論的研究)を架橋し、さらに人と人の関係性という文化の次元に関わる視 点を加える独自の試みであると私は考えています。このような試みを意義のある成果にしていくのは簡単なことではありませんが、人間社会の基礎理論に関わる人文科学系(人類学、社会学、経済学など)の研究との連携を積極的に行うこと、また、地域開発、地域まちづくりの実践に積極的に関わり、現場の視点を踏まえ考えることを重視して研究・教育に取り組んでいます。

昨年5月の着任から1年が過ぎようとしておりますが、今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(助教 建築学専攻)