ブラジルと日本での最適化の研究

福田 エレン 秀美

fukuda.jpgサンパウロ大学(ブラジル)で学部を卒業,修士を修了し,2011年に同大学で博士の学位を取得しました.その後,カンピーナス大学(ブラジル)でポスドク研究員として研究を進めておりました.2011年の秋に,京都大学大学院情報学研究科数理工学専攻の最適化数理分野に外国人共同研究者として訪問し,2013年10月に同研究室の助教として採用されました.

現在の研究室に初めて訪問したのが2010年の春で,まだ博士課程の学生のときでした.そのときは特別研究生として6ヶ月間滞在しました.私は日本人でありながらブラジルで育ったため,初めての外国での生活でした.日本の文化は理解していたつもりでしたが,実際に訪問すると戸惑うこともありました.日本語が話せるにも関わらず,外国から来たという理由でなぜか会話は英語でする必要があると思っていた方もいたようです.しかし,そのような戸惑いは少しずつ解消し,ポスドク研究員のとき,研究を進めるために再び日本へ訪問することにしました.

修士課程から現在まで,連続最適化における理論や解法について研究しております.最適化問題は,ある制約条件を満たす解の中で,目的関数の値が最小あるいは最大になるものを求める問題であり,工学,自然科学,社会科学などの分野における基本的な問題です.特に連続最適化問題は,離散最適化問題と異なり,探す値が連続的に分布している問題を表します.最適化の専門家は,そのような問題に対して,モデリング手法の構築および問題の理論的な性質の解析,さらに解法(アルゴリズム)の設計や開発を行っております.

一般に,現実の問題に対するモデリングは一通りではなく,様々なモデルが考えられます.しかし,モデルを現実の問題に近づけようとして複雑にすると適用できる手法が無くなってしまい,逆に単純なモデルでは得られる解が役立たない可能性があります.したがって,解きたい問題の要点を整理した上でモデリングする必要があります.さらに,モデリングされた問題の理論的な性質を調べることも重要です.現実は理論通りにいかないことは良くありますが,理論的な性質を把握しておくことで,現実問題の見通しが良くなります.また,アルゴリズム設計の観点からも理論は大切です.なぜならば,高速かつ正確に解くことができるアルゴリズムを設計するためには,最適解が得られたと判断する条件や,最適解が得られるまでの計算量の評価について明確にする必要があるからです.

私は2010年に日本に来てから2次錐計画問題と呼ばれるモデルの研究をしております.機械学習の例を用いると,2種類のデータクラスが与えられたときに,新たなデータがどちらのクラスに属するかを最も精度良く判別する超平面を求める問題があります.そのような問題においてデータなどに不確実性が存在するとき,2次錐計画問題としてモデリングできます.2次錐計画問題は,制約条件が2次錐という特別な錐を用いて記述される問題であり,最も知られている非線形計画問題を一般化した問題です.従来の非線形計画問題と異なり,2次錐計画問題,特に目的関数や制約関数が非線形である場合の研究はまだ新しく,理論的な解析やアルゴリズム開発が十分とはいえません.その問題は,近年注目を集めており,特に私は京都で2種類の手法を開発しました.

他の研究テーマとして,ブラジルの研究者と共に多目的最適化に関する手法も研究しております.多目的最適化とは,複数の目的関数が存在する最適化問題であり,例えば,金融工学におけるリスクの最小化と収益の最大化を同時に考慮する問題があります.さらなる研究テーマとして,通常の非線形計画問題や2次錐計画問題を拡張した半正定値計画問題に対するアルゴリズム開発にも取り組んでおります.どのような最適化問題の手法に対しても,その収束性の証明や理論解析,プログラミングによるアルゴリズム設計および数値実験が重要となります.

私が研究する際には,紙と鉛筆で証明等をするだけでなく,パソコンでのプログラミングおよび実験を行います.共同研究者との交流も通して,そのように研究を続けたいと考えております.そして,日本やブラジルだけでなく,国際社会に役立つような研究に今後も励んでいきたいと思います.

(情報学研究科 助教)