ウプサラ滞在記

名村 今日子

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京都に生まれ、2010 年に京都大学物理工学科を卒業、同大学工学研究科マイクロエンジニアリング専攻に進学し、2012 年に修士課程修了、2015 年には博士後期課程を修了しました。今年の4 月からは、学部の頃からお世話になっている鈴木基史先生の研究室で助教を務めております。これまで、貴金属ナノ粒子層をもつ薄膜の光熱変換・光音響特性とその応用について研究を進めてきました。現在は主に、薄膜の光熱変換特性を使った熱によるマイクロ流体駆動に関する研究を行っています。

博士課程進学時に工学研究科馬詰研究奨励賞をいただき、スウェーデンのウプサラ大学で約一ヶ月海外研修を行いました。訪問させていただいたのはVO2 薄膜の研究が盛んなC. G. Granqvist 先生の研究室です。VO2 という物質はサーモクロミック特性を持つことが知られており、68℃付近で金属—絶縁体相転移を起こします。この材料を自身が研究するナノ構造光熱変換薄膜に取り入れたいと考えていました。そこで、その第一歩としてVO2 ナノ構造の作製とその成長メカニズムを調べることを目的にウプサラ行きを決めました。

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ウプサラの街並み

ウプサラに滞在していた1 ヶ月は非常に濃密なものでした。研究室の方々にサポートしていただきながら研究をし、研究以外の様々な集まりにも呼んでいただき、日本にいるときとはずいぶん違った生活を送りました。たくさんの熱心な博士課程の学生とともに研究生活を送った楽しさは忘れられません。そんなウプサラでの生活の中で特に印象に残っていることが二つあります。研究グループメンバーの約半数が女性だったこと、それから幾つかの研究グループをまたいで教員・学生を含めたインタラクションがあったことです。ここでは詳しい研究成果の紹介は避け、これらの経験について書きたいと思います。

まず、一番日本との違いを感じたのは女性研究者の多さと出産・育児に対する意識の違いです。研究グループメンバーの約半数が女性という状況は、私にとっては驚きでした。日本では同じ分野でほとんど女性研究者友達が見つからないので、今でも女性に限定すれば日本よりウプサラにいる友達の方が多いです。さらに衝撃的だったのが、妊娠中の研究者の方が何人もいらっしゃったことです。研究室にベビーカーが乗り入れることもしばしばで、みんな親戚の子供のように扱っていました。社会福祉に手厚いスウェーデンならではの光景だったのでしょうか。単に女性研究者が増えれば良いとかそういうことを言いたいのではないのですが、女性の立場としてとても研究を続けやすそうな環境だと感じました。

そしてもう一つ、印象に残っているのは研究グループをまたいだ教員と学生の活発なインタラクションです。日常の挨拶だけでなく、「この内容だったら誰々が良く知っているから聞いてみよう」というように研究上の協力関係もうまく築かれているように思いました。そのような関係を築く架け橋の一つが、朝と昼のコーヒーブレイクだったように思います。毎日いつもの時間になると、キッチンとソファーと机と本棚がある共用のスペースになんとなく人が集まります。学生も研究員も教員も皆来た順に席につき、コーヒーを飲みながら日常会話を楽しんでいました。本当に数分だけ立ち寄る人もいれば、そのまま研究の話に発展して長らく議論している人もいました。このように日頃からコミュニケーションをとっているおかげで、研究グループをまたいで皆お互いのことをよく知っていたように思います。

結局ここまでとりとめもなく研修の様子を書いたような形になってしまいました。今後は自分が経験した海外の良い文化というのを、ただまねをするというのではなく、うまく日本の研究室文化に取り入れていけたら良いなと考えています。

最後に、馬詰彰様とそのご遺族の方々にはこのような貴重な経験をさせていただいたことに深く感謝いたします。本渡航での経験を生かし、国内外で広く活躍する研究者となるようこれからも精進していきたいです。

((平成24年度受賞者)助教 マイクロエンジニアリング専攻)

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 コーヒーブレイクの様子