桂キャンパス極低温施設の事故紹介

西崎 修司

西崎様写真2009年に京都大学工学研究科技術部技術職員として採用され、附属桂インテックセンターに配属された。学生時代より、液体窒素や液体ヘリウム寒剤を取扱っており、その経験を活かして、桂キャンパスにおける寒剤の供給業務、ヘリウム液化装置の運転、および維持管理、寒剤利用に関する実験補助や安全教育に従事している。

極低温施設は2006年に開設され、Bクラスター北側に位置する極低温施設棟にヘリウム液化装置が設置された。桂キャンパスの液体ヘリウムの使用量は、16,000リットルを越えており、桂キャンパス内で液体ヘリウムを供給している研究室は約30グループに及び、超伝導、磁性材料の測定や、光物性の研究、また物質合成に不可欠な核磁気共鳴装置(NMR) のマグネットの冷却等に利用されている。

ヘリウム液化装置を運転するには、非常に大きな電力が必要になる。その為、桂キャンパスの電力量のリミットを越えそうな場合、ヘリウム液化装置の運転禁止の連絡が入る。特に2011年の東日本大震災後の電力不足の際は、平日に運転禁止になり、仕方なく休日出勤して液化運転をせざるを得ず、ほぼ休みがなかった。最近では、徐々に運転禁止も緩和されたが、たまの厳寒や猛暑の為、冷暖房電力需要が跳ね上がると、運転禁止になってしまう。

ヘリウム液化装置の運転において、最も注意しなければならない事は、不純物の混入である。特に水分や空気が混入すると、装置内で1秒間に数千回転しているタービンの周りで固化してしまい、タービンの破損を引き起こす。実際、2011年6月に不純物が混入し、タービンの破損が発生した。原因は、不純物除去のフィルターが不十分の初期不良だった。それ以降、不純物成分分析モニターを厳しく監視し、水分と空気の混入を徹底的に排除し、事故の発生を防いでいる。

ヘリウム液化装置
ヘリウム液化装置

また、2012年7月に極低温施設が供給する液体ヘリウムを使用すると実験装置の細管が詰まる事故が発生した。調査の結果、水素が不純物として混入し、飽和した水素フィルターを透過して、液体ヘリウムに水素が混入していた。対策として、液化運転前に水素フィルターを真空引きして、水素を除去した所、実験装置の細管が詰まる事故は発生しなくなった。

高価で貴重なヘリウムは、全て輸入に頼っている為、可能な限り回収し不純物を取り除き、液化して再利用する事が非常に重要である。特に2012年は、ヘリウムが全く手に入らなくなるヘリウム危機が発生し、ヘリウムの回収率改善が必須となった。桂キャンパスでの実験で使用されたヘリウムガスは、桂キャンパスに敷設された回収配管を通って、極低温施設内のガスバッグに回収される。桂キャンパスのNMR は、回収配管が細過ぎた為、充填中の回収が出来なかったが、2013年に工学研究科専攻長裁量経費により、問題のある回収配管を改造し、充填中の回収も可能にした結果、劇的に回収率が良くなった。

ヘリウム回収には、一時的に大気圧でヘリウムを保存するガスバッグが必要である。2011年5月にヘリウム回収ガスバッグに大量の水が混入する事故が発生した。調査の結果、業者が新設の実験装置を納入した際に冷却水配管をヘリウム回収配管に誤接続して試運転した事が事故の原因だった。直ちにヘリウム回収配管内の水混入範囲を特定し、ガスバッグ及びヘリウム回収配管の水抜き作業、乾燥作業を行い、なんとかヘリウム回収配管を復旧させた。また、最近では、ガスバッグのワイヤー断裂事故や、ガスバッグに穴が空き、回収したヘリウムが漏洩する事故も発生し、対応に追われている。

ガスバッグ
ガスバッグ

現在、毎年最低1種類の資格取得を目指して自己啓発し、技術を研鑽、向上を図り、積極的に研修に参加して、見聞を広め、技術研究会に参加して、事故事例等の発表を行う事により、情報交流を行い、今後の業務に活用している。

将来的に、桂キャンパスの寒剤システムが、吉田キャンパスと宇治キャンパスと合同で、利便性が良いシステムが統一化される予定である。それに合わせて、桂キャンパスのヘリウム回収率向上を目指す。また、事故が起こる前に、事前に対処して、事故が起こったとしても被害が少ない体制を心掛けていく。

(技術職員)

極低温施設棟
極低温施設棟