磁気共鳴画像法と電気工学

笈田 武範

笈田先生写真2001年に工学部・電気電子工学科を卒業後、情報学研究科に進学し、2003年に修士課程、2006年に博士後期課程を修了しました。4回生の研究室配属時に、医用画像の研究に出会い、修士課程進学時より医用画像の一つである磁気共鳴画像法(MRI)を用いた生体計測に関する研究を始めました。博士課程修了後、縁あって再び工学研究科に戻り、現在は電気工学専攻に所属し、生体機能工学分野で脳機能計測を中心にMRI計測に関する研究を続けています。

MRIは、核磁気共鳴現象と呼ばれる物理現象を用いて生体の断層像などを画像化する計測法で、現在は1.5T~ 3Tの静磁場を用いた臨床用スキャナが多く普及しています。MRIでは、核磁化の歳差運動が引き起こす電磁誘導に基づいて信号を取得するため、MR信号の周波数が高いほど大きい信号が取得できます。MR信号は共鳴周波数が静磁場に比例するため、より信号対雑音比の高いMR信号を得る目的でより大きな静磁場を用いる研究が進められています。一方、MRIでは、MR信号を励起するために振動磁場や回転磁場を、MR信号に位置情報を付加するために勾配磁場を用いますが、これらの磁場の印加をパルスシーケンスによって制御します。MRIには、このパルスシーケンスを工夫することにより様々なコントラストを持つ断層像を撮像ができるという特長があります。学生の頃には、このMRIの特長を活かした撮像法の一つであるMRElastographyと呼ばれる生体の硬さを計測する撮像法に関する研究に従事していました。また、現在の研究室ではヒトの脳機能を計測する機能的MRIや体内の水の拡散の様子やその異方性を計測する拡散強調画像法や拡散テンソル画像法に関する研究に従事しました。この頃までは、計測手法や計測した画像の解析手法などの主にソフトウェアベースの研究をしていました。

現在は、理論限界が10-17T/Hz1/2と言われる感度を有する非常に微小な磁気信号を計測可能な光ポンピング原子磁気センサを用いて、低周波数の微小なMR信号を計測する超低磁場MRIの研究・開発に取り組んでいます。超低磁場MRI では、脳活動などに伴う生体から出る微弱な電流に基づくコントラストの生成など臨床用MRI では実現が困難な新たな機能画像を実現することが期待されています。この研究では、臨床用MRIの1/1000以下の1mT(日本で観測される地磁気の20倍程度)に満たない静磁場を用いてMR信号を計測しますが、臨床用MRIと比較すると周波数が3~4桁低いMR信号を計測する必要があるため、低周波数領域でも高感度な原子磁気センサを用いたMR計測について研究しています。この研究開発において実験のために、自分達で超低磁場MRIの計測システムを一から構築する必要があり、電磁気学に基づいてコイルの設計・実装を行ったり、電気的な回路特性から最適なコイル制御・信号計測システムを構築したりといったハードウェアの研究も次第に多くなりました。そのため、学部卒業以来しばらく離れていた電気回路、電子回路、電磁気学、制御工学など様々な知識を要求される場面が増えました。学生時代苦手であまり勉強しなかった分野もありますが、教わった授業の内容を思い出しつつ開発を進めています。ハードウェアの研究開発は、理論通りにはいかない部分があったり、いくら探してもノイズの原因がわからなかったりとソフトウェア関連の研究ではあまり出会わなかった問題に苦労することも多いですが、学生との議論を通して一緒に電気工学の知識を深めつつ研究に精進しています。今後も、MRI計測を対象にハードウェア・ソフトウェア両面から研究を行っていく中で電気工学・医用工学に資する人材を育成していく所存です。

(電気工学専攻 助教)