趣味と実益

松本 勝

松本 勝よく人からあなたの趣味は何ですか?また特技は?と聞かれることが誰にだってよくありますね。そんなとき多くの人は、別にこれといったことはないですがあえて言えばxxxxですかね。ということになります。私の場合は、あえて言えば、論理ゲーム、クイズ、下手な手品ということになります。これがなぜ実益につながるかといえば、まず、研究と行うにあたって、問題を論理的に解こうとします。これは問題解決に大変に役立つと思います。また、国際会議のバンケットなどの時に、タイミングを見計らい(これを誤れば逆効果になりますので注意が必要ですが)テーブルにいる人々にごく簡単な論理ゲーム、クイズ、あるいはごく簡単な手品を披露しますと、場が盛り上がるとともに、あちこちのテーブルからお呼びがかかることもあります。要は、多くの人々に松本という人間を覚えていただくとともに、ごく自然に親しくなれます。さらに良いことに、中には、やはり同じような趣味の持ち主がいて、それではこんな問題があるがお前は解けるかという具合に、自分のレパートリーが自然と増えるわけです。近く京都大学を退職するわけですが、自分の時間が持てるようになれば、是非ともこれらのクイズ、論理ゲームをまとめて本にしたためようとも思います。なんせ、専門書が売れない時代ですから。ここでそれらの問題を披歴してしまいますと、もし出版となった時の売れ行きの支障をきたしてと思いやめにしますが、その1,2程度はよいかと思いますので、後ほど披露します。なお答えはこの駄文をお読みいただいた方ご自身で見つけてください。その時のその問題の良さを発見されるはずです。論理ゲームや、クイズは実に人間の盲点を突いた場合が多く、その意味では、手品に共通するものがあります。また、良いクイズ、問題はちゃんと論理的あるいは理論的なバックグランドがあります。学生に講義をするにあたり、単に物事を暗記するのでなく、自身で論理的に理解をすることの大切さを説明します。時には論理ゲームの一つも披露して、この問題解けますかといって、論理的物事を考えるトレーニングとして利用することもあります。まさしく実益なのです。これだけもったいぶってくどくど述べれば、いったいどんな問題であり、どんなクイズ、ゲームかといらいらされてきた人もおられることでしょう。[ もしここまで我慢してお読みいただいた方には]  お礼の意味も込めて、まずペーパータワーという生理的なゲームを一つ。コピー用紙(別にコピー用紙である必要はありませんが)を横1-2cm、縦2-3cm に切り取り、その紙片を2つに折り曲げ、テーブルの上に立てます。この時周りにエアコンなどの風のないことが重要です。あればこの紙の塔は倒れてしまいますので。ここで「さあ皆さん、この紙の塔を手で触れず、吹かず風を作らずまたテーブルを揺らすことなく、物を使わず、倒してください。」と言います。何人かは、水をかけるとか、火で燃やすなど珍回答をいう人もいますが、もちろんぺけです。あそうだ、静電気を利用すればよいのだということで櫛を出して、ズボンでこすって倒そうとします。もちろんこれも物を使うということでぺけです。しばらくああでもない、こうでもないとがやがややっているうち、「答えは何ですか?」ということになります。実はこのクイズの面白さは、ここから始まります。おもむろに、「答えはこうです」と言って、手のひらで、ほっぺを2-3回たたき、速やかにその手のひらを紙の塔に近づけるとどうでしょう。紙の塔は、パタンとあるいはくるっとまわって倒れるじゃありませんか。ここで注意を有するのは、手のひらで団扇のように塔を仰がないことです。風を作ってはなりません。それを見た人はほとんど「なーんだ、簡単じゃないか。」ということでみなさんやってみます。しかし塔はぴくりもしません。倒れないのです。そこで、「あれ。おかしいですね」と言って、同じ動作をやりますと、また塔は、パタンと倒れます。そこで、呟くように、小さな声で「あそうか、みんなのほっぺをたたくのが弱すぎなのか」とやるわけです。当然みんなに聞こえるような小さい声でやるものですから、みんなは、強く自分のほっぺを5-6回多い人は8-10 回も、パン、パンとやるわけです。中には痛みで目から涙を出す人もいます。でも紙の塔は凛としていてやはり倒れません。ついにはイライラしてきて、「もう一度やってくれ」となります。私の場合は、2-3回優しくほっぺをたたくだけで塔は倒れます。中には、手を差し出したときに口でそっと吹いているのだという人も出てきます。そのため私の口を手で覆う人もいます。その時吹いていないあかしに、あーとかウーとか声を出しながら手を差し出します。でも紙の塔は倒れるのです。答えは簡単です。実は私は右手で左のほっぺをたたきます。あるいは、左手で右のほっぺをたたきます。要は、手とほっぺが異なることが重要です。ところが周りにいる人は、手のひらでほっぺをたたくという動作しか見ていないのです。もちろん、逆方向のほっぺは少したたきにくいということもありますが、100% の人は同じ側のほっぺをたたいていたことになります。ご自身で確かめてください。人間とは簡単にだまされるものです。ではなぜ、逆のほっぺを弱くたたいただけで紙の塔を倒すだけの静電気が得られるのでしょうか。それは、人間の体は、心臓が左にあるため、本来右と左に大きな電位差があるのです。それとほっぺと手のひらには十分な距離がありますので、2-3回軽くたたくだけで十分な静電気がチャージされることになります。ただこのゲームでもう一つ注意が必要です。それは、手のひらでほっぺをたたいた後すぐに紙の塔に手のひらを持っていかないとせっかくチャージした静電気が、ディスチャージしてしまい塔は倒れません。コツは、あらかじめほっぺを紙の塔に近づけることが大切です。さあ、試してください。面白いゲームです。このゲームは人間の生理現象プラス物理学からできていることが、納得していただけましたか。このほかまだまだ、沢山の面白い数学ゲーム。論理ゲーム(ドイツの友人から教えてもらったbishop ゲームは最高と思います。)、日本奇術協会で賞を得た手品なのですが実は物理(力学)ゲーム、心理学ゲーム(Do you speak English?とnative speaker にやる問題)などなど、たくさんのレパートリーがあります。おそらく20-30 いやもっとあるかもしれません。いずれも品位のあるなおかつ愉快な人の思考力や論理思考を高める問題満載です。ということで、趣味と実益の文章を終わりにしたいと思います。最後までお読みいただいたこと厚くお礼申しあげます。

(名誉教授 元社会基盤工学専攻)