京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム

GL養成ユニット長 森澤 眞輔

森澤 眞輔1.養成プログラム開設の背景

工学部・工学研究科では、現在、教育研究環境を整備・改革すると共に新たな視点から教育研究を推進すると共に、学生諸君のキャリアパスを支援する多くの教育研究プログラムが実施されています。文部科学省科学技術振興調整費や経済産業省等の外部資金の支援を得て実施されているこれらのプログラムには、
(1) 学部生を対象に、専門基礎学力に加えて国際的な広い視野や社会で活躍するための基礎的な力をバランスよく育成し、大学院課程への円滑な誘導を推進する、理数学生応援プログラム「グローバルリーダーシップ工学教育プログラム(平成19〜22年度)」
(2) 大学院教育の実質化と国際化の推進をめざす、大学院教育改革支援プログラム「インテック・フュージョン型大学院工学教育(平成19〜21年度)」
(3) 大学院レベルでの国際教育拠点の形成をめざす、グローバルCOE プログラム「物質科学の新基盤構築と次世代育成国際拠点(平成19〜23年度)」、「光・電子理工学の教育研究拠点形成(平成19〜23年度)」、「アジア・メガシティの人間安全保障工学拠点(平成20〜24年度)」
(4) 京都大学の大学院生と社会人の両者を対象として、医学研究科、再生医科学研究所と連携し、先端医工学に関する融合領域の基礎教育を行う、新興分野人材養成プログラム「京都大学ナノメディシン融合教育ユニット(平成17〜21年度)」
(5) 大学院留学生を対象に日系企業で活躍する人材の育成をめざす、アジア人財資金構想「産学恊働型グローバル工学人材養成プログラム(平成19〜22年度)」
(6) 国際公募し特定有期雇用教員(任期付き「助教」待遇)として採用した若手研究者を対象に、化学研究所、エネルギー理工学研究所、生存圏研究所、防災研究所と連携し、先端理工学の開拓研究分野において世界で競い得る研究者の育成と活力ある環境の形成をめざす、若手研究者の自立的研究環境整備促進プログラム「京都大学次世代開拓研究ユニット(平成18〜 22年度)」等
があり、学部・大学院の基幹教育プログラムと連携し、教育の実質化、国際化を推進しています。各プログラムが対象にする領域の概要を図1に示します。図1から、工学部・工学研究科の教育研究改革・支援プログラムには、博士課程を修了した大学院生のキャリパス確保を支援する環が弱いことが伺えます。

京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム

2.養成プログラムの目的

京都大学は、「自重自敬」の理念を掲げた個性的かつ特色ある教育方針を掲げ、優秀な研究者、指導者、教育者を育成してきました。その結果、あらゆる先端科学技術の領域において世界水準の知的貢献を果たすとともに、優れた資質を有し国際的に通用する人材を数多く輩出してきました。しかし、特に博士後期課程学生については、所属研究室における師弟間の研究を介する教育により、教育研究の後継者を育成することに重点が置かれ、社会のニーズに応えうる多様な研究者を戦略的に養成する、という視点が欠けていました。企業や行政機関、国際機関等においても深い専門性を生かしながらリーダーとして活躍する人材に対するニーズが多いにもかかわらず、それらに応えられる人材を十分には養成できていませんでした。

これらの課題に対処するため、工学研究科は薬学研究科と連携し、文部科学省科学技術振興調整費の支援を得て、平成20年度から5年間、「先端技術グローバルリーダー養成プログラム(略称、GL 養成プログラム)」を提供しています。この人材養成プログラムは、図2に示すように、博士課程と実社会とを繋ぐ位置に位置づけられます。

GL 養成プログラムでは、博士学位取得直後の研究者(ポスドク経験者を含む)および博士学位取得のための研究がほぼ終了している博士後期課程大学院生から履修生を選抜し、1年間の養成期間を設定し、研究を介する教育により修得した専門分野における深い学識に加え、

  • 自らの研究を広い視野から客観的に把握する能力
  • 自らの研究を関連する分野に展開し、新しい研究戦略・研究計画を立案する能力
  • リーダーとして、チームを統率する能力
  • 英語による論理的な文章作成、プレゼンテーション・討議能力

を備え、先端技術分野において国際的に活躍するリーダー(Global Leader)を養成します。修了者にはその適性に応じて、下記のような分野への就職を支援します。博士学位を有する若手研究者の活躍の場を従前にも増して開拓・拡大することをめざしています。

  • 国内外の企業等において新しい分野を創成、牽引できるチームリーダー
  • 様々な課題に対して、その解決策を柔軟に提示できる行政機関、国際機関等のテクノクラート
  • 国内外の大学での教育・研究者
  • 専門分野での研究を続ける企業・国公立研究機関等での研究者
  • 専門分野の研究成果を活かした起業家

京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム

3.養成プログラムの内容

GL 養成プログラムは、「産官学交流塾」、「双方向教育型共同研究」および「実践英語教育」を提供する他、関連情報を随時提供すると共に、面談等の方式により個別指導を行っています。

京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム(1) 産官学交流塾(写真1)

異分野の研究者と能動的に研究交流する場として、「産官学交流塾」を開設しています。履修生には少なくとも2回の発表義務が課されます。履修生は初回の発表において各自の博士論文研究の内容を報告し、社会的意義、発展性等を含む広い視点からディベートを行います。ディベートには、履修生以外にメンター教員、コンソーシアム参加企業等から選出された委員が参加します。2回目の発表では、初回の発表で与えられた課題への対応内容、双方向教育型共同研究の成果等を報告します。

産官学交流塾における活動により、履修生は「各自の研究を広い視野から客観的に把握する能力」を身につけます。

(2) 双方向教育型共同研究

履修生は、研究者として受入機関・企業等の研究者とお互いに刺激を受けながら研究を進める、双方向教育型共同研究(期間、3カ月以上)に参加します。

派遣先機関・企業等は、産官学交流塾でのディベートを通して履修生の研究分野や適性を十分に把握し、効果が期待できる機関・企業等から選定します。また、履修生1名ごとにメンター教員を定めます。履修生は、知財関係に配慮した共同研究協定の締結等、準備段階から共同研究に参加し、研究能力のみならず、「各自の研究を関連する分野に展開し、新しい研究計画を立案する能力」と「リーダーとして、グループを統率する能力」を身につけます。

京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム(3) 実践英語教育(写真2)

外国人教師によるマンツーマンに近い教育環境で、国際会議等における英語でのプレゼンテーション、質疑応答・討議、科学技術論文の作成法等を修得するための実践英語教育を受講します。履修生が書いた研究論文の草稿等を題材に、問題点・改善点等を指摘し合うことにより論文作成および教育技術の向上を図ります。

4.養成プログラムの運営

GL 養成プログラムを提供・運営する組織として、平成20年10月、京都大学に「先端技術グローバルリーダー養成ユニット(略称、GL養成ユニット)」が創設されました。京都大学総長の下にユニット長が任命され、意思決定機関として運営協議会が設けられています。運営協議会の下に、履修生候補者を選定するための候補者選定委員会、実践英語教育を担当する国際化教育委員会等、各専門委員会が設置されています(図3)。専任の特定教員として、准教授、講師、助教各1名が、またプログラムコーディネーター1名が着任しています。

産官学交流塾や双方向教育型共同研究の実施には、学内の諸機関との連携のみでなく、学外の企業や行政機関、国際機関等との連携が不可欠です。GL養成ユニットでは、京大工学桂会のメンバー企業や連携製薬企業等の賛同を得て、連携・恊働組織であるGL 養成コンソーシアムを構築しつつあります。

京都大学先端技術グローバルリーダー養成プログラム

5.養成プログラムへの応募・参加

GL 養成プログラムでは、毎年度2回、4月期と10月期にそれぞれ8名(工学研究科5名、薬学研究科3名)の履修生を採用しています。養成プログラムの履修を希望する者は、GL 養成ユニットのホームページ(http://www.ugl.kyoto-u.ac.jp)にアクセスし、最新の募集要項を入手し、所定の様式により指導教員の推薦を受け、応募して戴くことになります。募集は概ね毎年1月、7月に行われます。

履修生に採用されると、博士後期課程に在籍する学位取得真近の大学院生は双方向教育型共同研究の契約期間、リサーチアシスタント(RA)として、また博士学位取得直後の研究者はポスドク研究員として雇用され、京都大学の定めにより、RA は月額約10万円、ポスドク研究員は月額約30万円の給与が支給されます。また、これらの給与とは別に、内外の機関・企業等で実施する双方向教育型共同研究への参加、国際会議等での成果の発表に要する旅費・滞在費等の一部又は全額が支給されます。

養成プログラムの修了者には、所定の審査を経て、養成プログラム修了証が授与されます。また、修了者は、本養成プログラムにより内外の機関・企業等のキャリアパス確保の支援を受けることができます。

工学研究科および薬学研究科の博士課程修了学生数に比較すると、GL養成プログラムの定員16名(半期毎に8名)は極めて少数です。プログラムは、スタートアップ・プログラムとして位置づけられており、文部科学省の支援修了後は、京都大学独自の大学院教育プログラムとして定着させる必要があります。本養成プログラムへのご参画、ご支援をお願い申し上げます。

(教授・都市環境工学専攻)