建築の素材感について

江副 敏史

江副 敏史私は1976年に工学部建築学科に入学して、巽和夫先生、高田光雄先生にご指導いただき、その後1980年に卒業してすぐに株式会社日建設計に入社しました。以来大阪で建築設計の仕事に携わっています。

最初の大きな仕事は阪神淡路大震災直後の1995年の春に竣工した、大阪南港に建つ高さ256mの大阪ワールドトレードセンターでした。設計を担当した後、4年間工事現場に常駐しました。始めは嫌だったのですが、4年間じっくりと建築に向き合うことができ、設計図から施工図がおこされ、それをもとに建築が実際にできていく過程をよく勉強することができて、その後の設計に大きな糧となりました。

最近竣工した仕事では兵庫県立芸術文化センター(2005年竣工)と大阪弁護士会館(2006年竣工)があります。これらは共に日本建築学会作品選奨とBCS(日本建築業協会)賞を受賞することができましたが、「素材感」にこだわり「コンクリート」と「鉄」と「煉瓦」と「木」と「ガラス」という5つの素材で構成しました。

これらの材料に共通することは、古くから使われている当たり前の材料ということです。古くなり表面がはがれてくるとすぐに下の白いものが見えてくるような新建材ではありません。これらの素材は無垢であり、剥がれても、傷がついても、欠けても煉瓦は煉瓦、木は木、コンクリートはコンクリート、鉄は鉄であり続けます。コストの面で使わざるを得ない天井ボードなどの新建材は黒く塗って存在を隠しています。奇を衒わず、煉瓦は煉瓦であるべきところ、木は木であるべきところ、ガラスはガラスであるべきところに使う。そのことが建物に安心感・安らぎを与え、訪れる人々に幸せな気持ちを与えることができるのだと思います。またこれらの素材は今流行しているように無理やり薄く見せるのではなく、素材に見合った十分な厚みで見せるように心がけました。

建築の素材感について

大阪弁護士会館

そして素材に美しさと力を与えるのは光です。「芸術文化センター」ではトップライトの乳白ガラスを通して自然光が豊かに溢れる共通ロビーと、奥深い庇のある回廊を廻すことで外光が淡く薄められた大ホールのホワイエの対比。「弁護士会館」では南面に大きく開かれた開放的なエントランスロビーと、そのロビーとの境界にある煉瓦の透かし壁を通して光がほのかに滲み出る2階大会議室ホワイエの対比など。ここでは同じ素材が連続して使われていることで、時間によって移ろう光環境のもとで、同じ素材が異なる表情を醸しだしていくことがより明瞭となります。それ以外にも中庭、テラス、列柱など様々な手法で光を取り入れることで、一つ一つの素材の持つ情感をより豊かに引き出すことを考えました。

建築の素材感について

兵庫県立芸術センター

現代のモダニズム建築は「冷たい」とか「退屈」などという批判がありますが、これからも機能的でシンプルな建築であっても、「温かく」「豊かな」の建築を設計していきたいと考えています。

(株式会社日建設計執行役員(建築学科昭和55年卒業))