プラズマ応用技術への貢献を目指して

江利口 浩二

江利口私は平成3年3月に大学院工学研究科機械物理工学専攻修士課程を修了し、松下電器産業(株)(現パナソニック(株)) に入社しました。約14年間の勤務の後、平成17年7月から現在の航空宇宙工学専攻に所属しています。修士課程では、藤本孝教授(現名誉 教授)のご指導の下、プラズマ分光の研究を行いました。企業では半導体デバイス製造のための超微細加工プラズマプロセス開発に携わり、学生時代の核融合プラズマとは違った側面でプラズマを見てきました。

現代社会においてプラズマは、家電製品だけでなく、その高い反応性・低温プロセスという特徴から、電子機器を構成する集積回路の基本要素である半導体デバイスの製造工程をはじめ、様々な材料の表面改質、バイオ・医療分野での滅菌・減菌・治療、宇宙機推進などに広く利用されています。私は特に、プラズマが固体と接するナノスケールの領域でのプラズマ・固体反応機構に注目しています。例えば、Intel 社製プロセッサに代表される最先端のシリコントランジスタ製造においては、プラズマプロセスに要求される加工精度は原子レベル(1~2nm)に達しています。実は近年になって、プラズマと接するこの領域でのイオン・活性種の物理的・化学的反応により、プラズマに暴露されたトランジスタの性能・信頼性が大きく劣化する、という事実が明らかになってきました。このプラズマと固体表面相互作用による負の反応機構をプラズマダメージと呼びます。

現在の所属になってからも、これまでのわたしの活動分野であるトランジスタ製造のためのプラズマの研究に携わっています。「プラズマダメージを測る・予測する・設計する」というコンセプトで、研究室のスタッフ・学生諸君の協力のもと、宇治キャンパスにあるプラズマ実験装置を中心に活動してきました。  「測る」については、プラズマと接する表面層数 nm の領域での材料構造変化、及び電子にとっての欠陥(電子を捕獲しうるサイト)を、数値化できる電気的手法ならびに光学的手法を研究開発してきました。従来の電子線回折では観測困難な欠陥数を、変調手法と解析モデルを利用し数値化することで、“ある・なし”ではなく、プラズマダメージ量のアナログ的理解が可能になってきました。

一方、「予測する」「設計する」ためにはプラズマ自体だけでなく、プラズマに暴露されるトランジスタの性能・信頼性変動機構を理解する必要があります。プラズマからのイオン・活性種・電子の入射過程・ 帯電量、及びそれに伴うトランジスタ構造変化を一連の素過程に分割し、計算科学(古典的分子動力学法、第一原理計算、デバイスシミュレーション)を中心 とした反応機構の研究を進めてきました。その結果、 高性能・高信頼性トランジスタ製造を大きく支配するプラズマパラメータが、これまで指摘されてきたパラメータとは異なることが分かってきました。今後もプラズマは宇宙産業を含め、幅広い産業分野で利用されます。しかしながら、特に反応性プラ ズマはその複雑さから、決定論的運動論で扱うこと は非常に困難です。産業界における複雑なプラズマ応用技術の進化に貢献するためには、プラズマ反応過程を「測る・予測する・設計する」という基礎的研究が必要です。また一方で、プラズマ・液体間反応などの新しい場の探求も大切です。最近は、プラズマのゆらぎに着目し、プラズマ・固体表面の反応機構をより精度高く「測る・予測する・設計する」 研究を進めています。

最後になりましたが、私の研究活動は、当研究室の斧高一教授、鷹尾祥典助教、そして過去に在籍されたスタッフや学生諸君、さらには共同研究先の多くの方々に支えられています。この場を借りまして、 皆様に深く感謝の意を表します。

(准教授 航空宇宙工学専攻)

江利口図

プラズマダメージ量を光で測る