来るべき**時代にむけて

北海道大学・触媒科学研究所長 長谷川 淳也

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 時代は平成から**への移り変わりにありますが、この三十年はまさに自分がアカデミアに関わってきた時間に符合します。平成元年に合成化学科に入学し、平成10年に合成・生物化学専攻にて学位を取得し、ルンド大学にて博士研究員、合成・生物化学専攻にて助教、講師として奉職し、福井謙一記念研究センター・准教授を経て北海道大学触媒化学研究センター(現在の触媒科学研究所)・教授を拝命し現在に至りました。

 私は合成化学科・中辻博教授が主宰された研究室にて量子化学、特に分子の励起状態理論の研究に取り組みました。平成時代は非常に大きな変化がありました。研究室に配属当時、計算の主流は大型計算機でした。当時の分子科学研究所の計算機センターに日本電気のSX3が導入され、主記憶が2Gバイト!に拡大されて大喜びしました。当時の研究課題は、より大規模な分子に励起状態理論を応用するためのアルゴリズム開発でしたが、主記憶の増大によって格段に大きな分子の励起状態が対象になったからです。昨今ではノートPCですら数Gバイトの主記憶を持って久しくなりました。平成時代の計算機開発は、「京」に象徴されるようにCPUの超並列化へと移り、他方でPCの性能は向上してGaussianが実験研究者のツールとなるに至りました。来る**時代には、どのような変革がある/起こせる?のか、アカデミア人生の後半戦に頑張りたいと思っています。

 私が着任した北海道大学触媒化学研究センターは、平成元年に当時の触媒研究所の看板を掛け変えて、平成の世に再出発しました。以来、人事に関する厳しい制限を設け、人材育成システムを組織化し、若手研究者を支援する制度を整備した結果、優れた業績を上げ、他機関へ昇進する若手研究者を多く輩出しました。京大工学部出身の研究者6名がセンター/研究所教員として尽力されました。触媒化学研究センターを経た若手研究者14名が、東京大学、京都大学をはじめとする主要大学にて教授として活躍されています。平成27年には触媒科学研究所への改組を遂げました。触媒センターは輝かしい平成時代を飾ったと言えるでしょう。先輩の知恵と努力に敬意と称賛を送ると共に、来る**時代にむけて、附置研究所としてユニークな存在意義を発揮できるよう努力したいと思います。

 触媒科学研究所は、平成10年から文部科学省の全国共同利用・共同研究拠点として認定されており、所外の研究者に研究費を提供し、研究所との共同研究を支援しています。昭和時代のはじめ、喜多源逸先生が人造石油製造の新触媒研究と工業化に尽力されました。コバルト代替触媒の開発を、工業化を見据えつつ基礎研究から行われたこと、これを企業も含めた大規模な共同研究で実施されたと伺いました。来る**時代において、異分野との共同研究が新しい触媒開発、研究手法開発の端緒になると期待しており、是非皆さまの御参入をお待ちしております。

(北海道大学・触媒科学研究所長)