学内の共同利用設備について考える -質量分析室より

西村 果倫

西村 果倫web.jpg 質量分析計(MS)は、イオン化された化合物の質量(質量電荷比)を測定するためのもので、有機化学や生化学の分野においては無くてはならない研究設備です。その一方で、価格が高額であることや、維持管理に必要な労力が大きいこと等の理由により、研究室単独で保有することが難しい設備でもあります。
 工学研究科合成・生物化学専攻 質量分析室(MS室)は、約10台の質量分析計を集約するとともに専任の技術職員を置くことで、研究室の経済的・労力的負担を軽減するべく設けられているものです。近年は上記専攻の枠を超えて、年間2~3千件の依頼測定と50名超の新規利用者数を誇る共同利用設備へと成長しつつあります。

 このMS室に、私は技術職員として6年前に着任しましたが、技術的な業務に関しては着任以来ずっと「ワンオペ」の状態です。そのため、いつも頭を悩ませているのがマンパワーに関することです。一般的に、質量分析計のような手のかかる設備を保有する場合、購入と同時にメーカーと保守契約を結び、維持管理作業をメーカー側に丸投げするのが普通です。ところがMS室では、予算事情により保守契約を結ぶことができず、維持管理作業に手を取られるあまり、本来注力すべき測定業務に支障を来すこともしばしばです。
 頭が痛いのはそれだけではありません。MS室では設備の維持管理のために、最低でも年間5百万円程度の費用が必要ですが、対する年間予算は微々たる額で、到底足りるものではありません。そこで、不足分は利用者負担としていますが、運営費交付金が減額されていく昨今、研究室へご負担をお願いすることに年々困難を感じています。
 学内にはMS室以外にも多くの共同利用設備がありますが、他の設備ではどのような状況でしょうか。

 こうした現状を少しでも改善するためには、学内のあらゆる共同利用設備の稼働状況を一元的に把握するとともに、稼働状況に応じてマンパワーや予算を適正配分すること以外にないものと思われます。最近は技術開発のスピードが指数関数的に加速しており、新技術がまたたく間に時代遅れになることがあるため、学内の設備が新旧全て有効に稼働しているとは限りません。同じ理屈で、全ての設備が同量のマンパワーを必要とし続けるとも限りません。にもかかわらず、学内の各設備が要するマンパワーや予算を適正配分するシステムは、私の知る限り、充分には整えられていないのが現状です。
 共同利用設備の稼働状況を最もよく把握しているのは、各設備の管理担当者です。そして、そうした管理担当者の多くは、私と同じ技術職員です。だとすれば、上記した一元管理システムの整備は、技術職員が主体となって行うべきではないでしょうか。近い将来、維持管理予算の適正配分や管理担当者の適正配置といった業務を、技術職員が一元的に担おうとする動きが生まれることを、私は願っています。

(技術職員)