「熱流体」×「光」

機械理工学専攻 助教 栗山 怜子

栗山 怜子web.jpg 私は2010年に慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科を卒業後、同大学大学院総合デザイン工学専攻に進学し、2012年に修士課程、2015年に後期博士課程を修了しました。大学・大学院時代は、医療機器や分析装置の小型化に向けた基礎研究として、ラマン散乱光を利用して微小な流れ場を非侵襲に計測する研究に携わりました。普通では目に見えないマイクロスケールの流れを「光」で捉える研究の面白さに魅了され、あっという間の6年間だったように感じます。その後、京都の分析・計測機器メーカーである株式会社堀場製作所に1年間勤務し、2016年4月より機械理工学専攻 中部主敬先生の研究室で助教を務めています。生まれ育った東京から京都に移り住んで4年、そして京都大学に初めて足を踏み入れてから3年が過ぎました。東西南北で位置関係を考えることにもようやく慣れ、学生の関西弁につられることもだんだんと多くなってきています。教員としての生活にも初めは戸惑う事ばかりでしたが、周囲の人に支えられて次第にペースを掴み、学生との関わりに刺激を受けながら日々研究を行っています。
 私の所属する熱材料力学研究室は、熱工学・流体工学を専門とするグループで、マイクロ~ミリメートルスケールの流れ場の熱・物質輸送現象の計測・制御・解析に取り組んでいます。一言でいえば「熱流体の研究室」ですが、私たちが扱う対象は様々です。界面活性剤や高分子を含む粘弾性流体、光で特性が切り替わる機能性流体、細胞・血液を含むバイオ流体や、マイクロバブル周りの流れなど、少し変わった流れも多く扱っています。また、研究に用いる手法が多岐にわたることも特徴です。熱電対を用いた伝統的な方法での伝熱性能評価や、光学的な手法に基づく流れ場の可視化計測、電気的な駆動力を利用した細胞の輸送、数値シミュレーションによる熱と流れの連成現象解析など、様々なアプローチによって現象の理解や制御に挑戦しています。
 その中でも今回は、私が興味を持つ「光」に関連する研究テーマとして「光レオロジー流体を用いた伝熱制御技術の開発」をご紹介します。光レオロジー流体とは、特定の波長の光を受けることで粘弾特性が変化する流体を指します。流体の粘弾特性に応じて流れ場の様相や伝熱特性が変化することはよく知られており、特に微小な流れ場では、粘弾性に起因する流体混合や熱伝達の促進が起こります。そのため、光レオロジー流体に対して所望の場所・タイミングで光照射を行うことで、粘弾性変化に基づくアクティブで新しい伝熱制御の実現が期待されるのです。一方で、光レオロジー流体を真に効果的に利用するためには、粘弾性による流体混合促進の機序に関する基本的な理解が欠かせません。現在は、光レオロジー流体の光応答性や伝熱性能の評価、流れ場計測のデータを地道に蓄積しながら理解を深め、光による新しい熱流体計測・制御技術に向けてアイディアを絞っているところです。これからも専門としての熱流体工学分野の基礎を固めながら、「熱流体」と「光」の組み合わせによる新しい研究テーマにも積極的に取り組んでいきたいと思います。

(機械理工学専攻)