廣瀬 貴之

略歴

2015年3月 九州大学工学部 機械航空工学科 卒業
2017年3月 京都大学大学院工学研究科 修士課程 機械理工学専攻 修了
2020年3月 京都大学大学院工学研究科 博士後期課程 機械理工学専攻 研究指導認定退学
2020年9月 同上修了。京都大学大学院工学研究科博士(工学)学位を取得。
2020年4月 有人宇宙システム株式会社(JAMSS)入社

メッセージ

廣瀬 貴之

■現在の職務内容について
私は有人宇宙システム株式会社(JAMSS)にて、大きく分けて次の2つの業務に現在携わっています:1つは国際宇宙ステーション(ISS)にある日本実験棟「きぼう」をはじめとした宇宙機の運用に係る安全検証を実施すること;もう1つは、そのような業務の中で培われた安全に関する技術や知見について、分野や業界の垣根を越え社会に広めていくことです。私の修士・博士課程での研究はそのための方法論に関するものでしたので、それを現在は産業界で継続・実践している形になります。また今後は、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の運用にも管制官として携わることになっています。

■博士学位を取得しようと考えた動機
私が博士学位を取得しようとした動機は、修士2年の就職活動の時点で、いま就職するより研究を続けた方が、普段は見ることのできない世界を多く見ることができ、将来的にも面白そうであると感じたからです。何とも単純かつ直感的な動機なのですが、当時は本当にそのくらいの勢いで即決した記憶があります。その直感と決断がその後どうなったのか ― それは以下に記す通りで、結果的には大正解でした。

■進学の際に不安に感じていたこと
進学するにあたり上記の動機も相まって、完全なる未知の世界に飛び込んでいくような不安はありました。当時、私と同学年で博士課程に進学した顔見知りは1人しかいませんでした。また、研究室内でも修士課程から博士課程にストレートで進んだケースは久しぶりだったらしく、先例がない中を手探りで進んでいくような感覚がしばらく続いた記憶があります。

しかし博士課程の活動が本格化すると、そのような不安も次第に薄れていきました。たとえば京都大学リーディング大学院デザイン学プログラムでは、他分野の博士課程の学生と交流する機会が増え、同期とは互いに刺激し合い、先輩方には博士号取得に向けた今後の計画等に関して具体的な相談に乗ってもらうなど、随分と仲間に助けられました。また研究活動の場も修士課程の頃と比べ、産学官や国内外の垣根を越えて格段に広がりました。そこでは様々なバックグラウンドを持つ方たちから多様な意見や経験、そしてときには武勇伝(?)を聞くことができ、そのような話が自分の博士課程での活動に対する自信や、これからまた努力するための活力を与えてくれました。改めて振り返ると、私の博士課程は総じて人との繋がりに支えられたものでした。

■後輩へのメッセージ
私は博士課程での研究活動などを通じ、分野や業界、国の垣根を越えた実に多くの人と出会い、その中で様々な人との繋がりや縁に助けられました。実は現在勤めている会社(JAMSS)に関しても、私が博士2年のときにイギリスで開催された学会をきっかけに、定期的なディスカッションや共同研究を重ねるようになり、就職にまで至ったという経緯があります。「博士」と聞くとどうしても学者や研究者などアカデミック色の強い世界の印象を抱きがちですが、それはあくまで物事の一側面に過ぎなかったというのが現在の私の率直な思いです。

博士課程を経て博士号も無事に取得した現在、「博士」は世間一般に言われているように研究者としての能力を保証するのみに留まらず、人を繋ぎ、現在の自分の世界 ― そしてさらには将来を大きく広げるものであると私は強く感じています。現在は修士号を取得した段階で就職する方が、特に工学系の学生にとっては「人生のコストパフォーマンス」が良く、「博士号は足の裏の米粒」などと揶揄されることもあります。しかし私自身の経験や周囲の様子を見る限りではありますが、「博士」を取り巻く環境は変わりつつあります;特に上記のような潜在的メリットも含めた「博士の強み」に対する認識や需要は、まだまだ限定的ではありますが、アカデミアの世界に留まらず、少しずつゆっくりと、しかし確実に広がりつつあります。これから進路を考えられる皆さんも、目先の数年だけではなく20年、30年という長い目線でも将来を見据え、次の一歩を踏み出してもらえたらと思います。その際このメッセージが、皆さんの将来の一助になれば大変嬉しく思います。

 2021年4月掲載)