学生実験という仕事に携わって

工学研究科技術部副技術長 廣瀬 守

廣瀬 守大学紛争の余韻が残る昭和46年に私は今の職場に就職しました。当時、民間の油脂会社で、食品の分析、開発と品質管理を行っていましたが、有機化学の方面の仕事を希望していたので、工学部の合成化学教室にお世話になりました。

最初の仕事は三回生の学生実験で(1)無機および分析化学実験、(2)基礎物理化学実験、(3)応用物理化学実験、(4)有機化学実験を1年間、教員と共に学生実験を担当することでした。当時は合成化学教室ができて、実験装置や器具も今ほど充実していませんでした。天秤も化学天秤でライダーを使って振れの値から0.1mgの単位を読み取るもので非常に時間がかかるものでした。有機化学実験でも蒸留装置はゴム栓を使っていましたが、毎年少しずつ、すり合わせの器具に取替えて実験の改善と時間の短縮を図りました。

今は反応装置もマイクロリアクターなど小型化と自動化が主流になりつつあります。しかし、技術教育は学生の育成を目的にするもので、自動化された装置や機器に任せるだけでなく、学生が体を動かし、体験し、認知し、考え、技術を修得させる必要があります。教育は産婆にたとえられますが、実験では化学現象を通じ、学生が、化学に対するセンスと技術力を生み出すのをいかに手助けするかという所に重点が置かれています。限られた時間と設備の中で、教員と共に時代に即した実験を組み立て、行っていくのが教育に携わる技術職員の役割です。

細胞膜、リポソーム(りん脂質の二重膜)の研究にはガラス細工で装置を作り、ラウリル酸ナトウムによる表面張力を物理化学実験で行い、DNA の紫外線損傷の研究には、光化学反応を有機化学実験で行ってきました。

学生実験という仕事に携わって学生実験の仕事は化学が主なものですが、時代とともに生物や電子、情報を含む、幅広い工学の知識が要求されます。私が職場に入った時は、反応速度を測る電気伝導度測定装置はマジックアイが使われ、部品も真空管で修理も簡単でした。今は核磁気共鳴装置(NMR)もIC やLSI で制御もパソコンのソフトで行っています。機器や装置の性能はよくなりましたが、回路図もなく、ソフトもプロテクトがかかっています。機器の維持、管理や修理にも今までと違った高度の知識が要求され、一個人では対応できず、組織的な技術の蓄積と技術職員間の技術の共有が求められています。

平成19年には工学研究科技術部体制が発足し、研修委員会委員長として、各専門室からの委員とともに技術研修を企画しました。昨年の11月には秋の技術研修として、卒業生のお世話で、田辺三菱製薬(株)や独立行政法人造幣局の工場見学を行うことができました。この3月で定年を迎えましたが、工学研究科の技術部が環境整備を図り、技術研修などを通じて技術職員が大学により一層貢献できるよう希望しています。

(技術専門職員 合成・生物化学専攻)