グローバルCOEプログラム 「光・電子理工学の教育研究拠点形成」

拠点リーダー 野田 進

野田 進20世紀の科学技術の進展により、情報処理量・速度とエネルギー消費は増大し続けています。21世紀においては、我が国だけでなく中国、インドを含めた全世界規模で情報処理量とエネルギー消費が爆発的に増大し、既存の「情報・電気・電子」の枠組みにおける取り組みのみではこれらの問題に対応できなくなるのは時間の問題と予測されています。このような背景の下、20世紀後半に電子立国となった我が国が引き続き世界を先導するためには、物理限界に挑戦する新しい概念の提唱と、その基盤を支える学術拠点の構築が肝要です。本拠点の前身は、平成14年度からスタートした21世紀COE において電子材料・デバイス分野、特に、フォトニック結晶、ワイドバンドギャップ半導体を中心とする光・電子分野の教育研究が世界水準にあるとの高い評価を受けました。本グローバルCOEにおきましては、これらの世界水準の教育研究を核として、京都大学ならではの深い物理的思考に基づく教育研究の背景をもつメンバーを結集し、上記の課題に対応すべく、光・電子分野における“物理限界への挑戦と新機能/ コンセプトの創出”を目指す「光・電子理工学」(図1)の学術拠点の構築と国際的な人材育成を行って行くことを目的とします。光および電子分野における物理限界への挑戦の具体例は、例えば、以下のとおりです。/ 光は止められるか、それを実現する光チップは可能か? / シリコンで(ナノ)レーザは実現可能か? / 波長限界を超える光の集光(デバイス)は実現可能か? / 蛍光灯に代わる(脱水銀)固体照明は可能か? /500℃で動作する電子デバイスは実現可能か? / 効率100% に迫る電子デバイス、光デバイスは実現可能か? / 原子レベルの揺らぎがあっても安定に動作可能な次世代超LSI は実現可能か? / 等々。これらを実現するための教育研究は、まさに物理限界への挑戦であり、かつ爆発的な情報量増大やエネルギー問題への解決の糸口を与えるものであり、その必要性、重要性は極めて高いと思われます。

光・電子理工学の教育研究拠点形成

図1:光・電子理工学の概要図

本拠点形成に際し、H19年4月より「光・電子理工学教育研究センター」を設置しました。本センターを核に、図2に示す体制で、拠点形成を行っていきます。まず、研究活動におきましては、既存の概念を打ち破る光・電子機能を創出する国際研究拠点の形成と、国際的に活躍可能な人材の輩出を目指して行きます。具体的には、3つの研究グループ:自在な光子制御グループ、極限的な電子制御グループ、およびそれらを支える基礎研究グループを形成し、“物理限界への挑戦と新機能/ コンセプトの創出”をキーワードに、グループ間の有機的な連携によるピーク相乗効果促進と国際連携を積極的に推進していきます。国際連携においては、これまで、本拠点が築いてきた国内外の拠点との連携をさらに強めるとともに、新たに、本拠点の有する光・電子理工学に関する深い知見と充実した研究装置群さらには本拠点で実現した新しい光・電子機能をもつ材料/ デバイスを開放し、世界各国からの共同研究や研究者派遣提案をもとに、若手研究者の積極的な参画をベースとした国際共同研究ネットワークの構築を目指します。以上により、今後の爆発的な情報量増大やエネルギー問題の解決の糸口を与えるような革新的な光機能、電子機能の創出(例えば、光をそのまま蓄えることの出来る光チップの創出、シリコンナノフォトニクスの新展開、超波長分解能光源・イメージングの創出、固体照明技術の新展開、数100℃で動作可能な電子デバイスおよび超高効率デバイスの創出、次々世代LSI チップの基礎の創出等)と、その国際拠点の構築および国際級の人材の輩出が可能になるものと確信します。

光・電子理工学の教育研究拠点形成

図2:拠点運営体制

上記のような研究活動を通じた人材育成のみな らず、光・電子理工学教育研究センターを核として、次のような各種の人材育成プログラムを実施します(図2)。(i)大学院修士・博士融合教育コースを開 設し、修士・博士後期課程から融合教育へと移行し、早期のエクスパティズの確立を目指します。(ii)複数の教員による集団指導体制を構築し、専門分野で の高い知識・能力に加え、既存の概念を超える概念創出のために不可欠な境界領域の研究をも取り込むことの出来る幅広い視野をもった人材育成を目指します。 (iii)COE 特任助教として、優れた人材を国内外から公募するとともに、成果に応じてテニュア資格を与える制度を導入します。さらに、(iv)優秀な博士学生を、リ サーチアシスタント(RA)として雇用するとともに、(v)助教・PD に対しては、充実したCOE グラントを設け、研究インセンティブを高めていきます。さらには、国際的に活躍出来る人材を育成するため、(vi)コミュニケーションスキル向上プログラ ム、(vii)国際共同研究ネットワーク参画プログラム、短期留学・国際会議派遣支援プログラムを実施するとともに、(viii)外国人客員講座を設け、 海外の研究者との交流を通じ、国際的人材育成を行っていきます。これにより、“物理限界への挑戦と、新機能/ コンセプトの創出”のマインドをもち、かつ今後の情報量の飛躍的な増大やエネルギー問題の解決の一助となるような重要な成果を生み出すことの出来る国際級 の人財育成が可能になると確信します。

(教授・電子工学専攻)

光・電子理工学の教育研究拠点形成

図3:人材育成