プラズマの織りなす多面性に魅せられて

酒井 道

酒井 道核融合・電離層研究に端を発するプラズマ理工学は、80年代以降半導体デバイス製造に欠くことのできない装置産業において花開き、最近ではナノ物質の創成や環境・医療応用にまでその適用範囲が広がってきています。このように多くの分野で活躍するプラズマですが、応用面での多様性だけでなく物性としても実に多様な性質を表すため、それに魅せられて私はこれまでこの分野を専門としながら研究生活を歩んでいます。

電気系に属する者としては、やはりその電気的特性に一番関心が向くわけですが、私は他の固体・液体状態にはないプラズマの3つの特徴に着目しています。1つ目は、プラズマ生成用エネルギー注入の調整により、存在そのものや内部パラメータが可変にできることであり、これはすぐにご理解いただける内容と思います。2番目には、マイクロ波帯からテラヘルツ波帯で誘電率が負となることであり、これは負の屈折率の実現等で話題の“メタマテリアル”(物質を超えた物質)の構成要素として重要な特性です。さらに、3番目として、プラズマの端部では徐々にプラズマの“濃さ”(電子密度)が減少するので、一種の(電気的特性に関する)機能傾斜材料と見なすことができ、表面プラズモン等の表面伝搬の電磁波現象が大きく変化します。

プラズマを含んだメタマテリアルの内容をプラズマ関連の学会で発表すると、最近決まっていただくコメントとして、「プラズマ・金属等を含んだ複雑構造の電気的(電磁波)応答を調べれば、逆問題としてプラズマのパラメータを診断できるのではないか」というご指摘をいただきます。すなわち、あるパラメータを持つプラズマを含んだメタマテリアルに機能的かつ複雑な構造を持たせて特異な電気的応答を実現するわけですが、逆に電極とプラズマを含んだ複合体に対しての電磁波の応答を調べると、内部に生成されているプラズマのパラメータを推定できます。冒頭に述べましたように、プラズマの応用範囲がどんどん広がっている現在、種々のプラズマの特性を比較検討する普遍的な“物差し”(診断法)を提案することで、プラズマ応用分野全体の統合的理解が進めば望外の喜びです。

プラズマの織りなす多面性に魅せられてまた、プラズマの応用分野の広がりに従い、柔軟にいろいろな形状で、しかも容易にプラズマ生成できる手段の必要性が高まりました。そこで、私は大気圧プラズマ生成を絶縁被覆導線を組み合わせるだけで実現する“ファブリック型電極”(写真参照)を提案しております。美しく発光するプラズマが大気雰囲気・大気圧下で簡単に実現できるため、アウトリーチ活動の一環で行う高校生の実習体験でも、皆歓声を上げながら取り組んでくれます。工学という実用性の強い分野を分担する一人として、自らの研究に対しての社会的受容性や貢献度を意識せねばならず、究極的には文芸批評家の大家で最近亡くなったヒュー・ケナーが指摘するような工学的美の実現や文化的影響も視野に入れて、研究を遂行していきたいと思っております。

(准教授 電子工学専攻)