退職にあたって

岡 二三生

岡私は、昭和43年に工学部土木工学科に入学し、その後修士、博士課程を修了して、昭和52年に工学部助手に採用されました。学生時代は、土木系の研究室で教育を受けましたが、助手の時に耐震工学の研究室で2年過ごし、岐阜大学の土木工学科の土質力学の研究室へ転出しました。 1983年から1984年にかけて、カナダのケベック市にあるLaval 大学で客員教授として滞在しました。 その後、平成9年に工学研究科の土木工学専攻へ配置替えとなり、土質力学分野、その後改組で社会基盤工学専攻を担当してきました。専門は、地盤材料の力学、多相系の計算力学などで、具体的には土や軟岩の構成式、変形の局所化、液状化、圧密・掘削問題、メタンハイドレート含有地盤問題、堤防など 盛土の強化再生問題、X-CTによる地盤材料の可視化などです。

4回生の初めに研究室配属があり、赤井浩一先生の研究室を希望しました。理由は土質力学がまだ成熟していないように感じたからです。当時は、学生運動の影響もあり、学生には自由な雰囲気が強かったようです。平成19年度から、工学研究科では、融合コースという大学院の他分野との融合、修士と博士の連携を考えたコースが設置運営されていますが、当時、連続体力学の一分野として有理力学の勉強会が当時航空工学の徳岡辰雄先生によって開かれており、学生時代から参加しました。大阪大学や神戸大学など、機械、建築、土木などの先生方と勉強 したことは、融合的な環境が存在したことを示して います。博士課程の時には、福井謙一先生の統計熱力学などの講義、単位交換学生として大阪大学にも福岡先生の波動論なども聴講にゆきました。大阪大学とは単位互換制度ができた最初でした。最近は、先のように積極的に働きかけないと融合できないのかなとも思いましたが、制度としてのサポートも重要であると思います。融合が深まることを期待しております。

さて、学生時代研究室ではよく長い議論をしていました。恩師の足立紀尚名誉教授とは、昼食の後、 議論し、気がつくと5時をまわって、さあ仕事をしようということも、しばしばでした。学生時代の研究でなんとか数篇の論文を書きましたが、今のように論文の数をさほど気にすることもなく、何が問題か、研究室で何が行われているかをよく考え、議論 していたように思います。助手の2年目になって、それまでに考えていたことをまとめて論文にしましたが、学部、修士、博士と6年間考えてきたことで、やっとすこし分かってきたような気がしたものです。当時の先生は、博士論文は修了2年目にまとめるように言われましたが、そのほかは特に指示はなかったようで、自由にさせてもらいました。京大の良さだったのでしょうか? 最近は、自分を含め論文の数にこだわったり、引用回数を気にしすぎるのではないかと思います。

最近の研究環境についてですが、プロジェクトが増えたせいか成果を急ぐ傾向があり、基礎的な研究は後回しになっているかもしれません。ただし、現実問題の解決には基礎的な研究が必要なことが多く、応用と基礎のバランスは大切です。私が入学した当時、主任の先生が大学というところは10年後に役に立つことをするのだとおしゃっていたことを 思い出します。

次に、学生の教育の問題ですが、現在、一般教養 ・基礎教育の重要性が叫ばれています。この問題では、全学的に理念や内容が議論されてきましたが、教養・基礎教育については、大学入学までの教育期間の問題があります。戦後教育改革が行われる前には、小学6年、中学5年、高校3年で大学は3年でした。その後、6、3、3、4制となり、中等教育期間を補うため大学は1年加えて、4年となったわけで、大綱化以前は2年間が教養部での教育となっており、専門教育は大学院修士課程で行うというようになっていたわけです。それなりに機能していたのかもしれません。その後、くさび型教育として専門教育が2回生から始まることとなり、教養・基礎 教育の時間はさらに減少しています。外国に目を向けると、初等、中等教育では、英国は5歳から小学校がはじまり、高校のあと大学への準備学級などがあります、また、フランスでも大学前に準備学級があり、初等中等教育最大13年と充実しています。 このように、理念内容とともに教育期間の改革も重要です。

一般教養・基礎教育に時間をかけるとして、専門教育では学部と大学院修士との連携が重要だと思います。工学系では、かなりの学生が進学するので、学部専門と修士一貫教育を目指してはと思います。 その際、卒論の問題があります。卒論は自主的に研究のなかで教育する方法として有意義ですが、一方、内容が年々高度化し、3回生までの専門教育では不十分なことも多いこともあり、履修内容に戸惑う学生も多いのではないでしょうか?このギャップは若い教員や大学院生が埋めているのが現実です。研究を通しての教育は、ふさわしい研究の発展段階では非常に有効ですが、ギャップが大きくなると問題です。またこれが蛸壺教育になりがちだと言われる所以でもあります。一貫教育で修士、博士論文に重点を置くと良いと思います。その場合、4回生で実務に就くコースの学生には、それ向けのカリキュラ ムを組む必要があります。国際化では、グルノーブル大学とのコーディネーターを長年務め、ダブルディグリー制度を設けましたが、修士課程のみであり、今後是非博士課程でも可能となるよう進めて欲 しいと願っています。先の教養教育ですが、新入生のポケットゼミは開始時から地盤科学入門として参加でき有意義であったと思います。また、地球系土木コースでの学部からの英語教育国際コースは先進的ですが、日本の学生を含めバイリンガル教育を期待します。

その他の大学関係の活動では、カールスルーへ大学との交流も行ってきた関係もあり日独文化研究所の評議委員を務めました。この研究所は岡本道雄元総長が理事長をつとめられましたが、学生の頃参加 したドイツ語講座ではなく、哲学に重点を置かれており、震災や一昨年の原発問題など社会と科学技術 との関係を考える時、岡本先生はじめ諸先生方の論考は大いに勉強になりました。また、統合複雑系科学研究ユニットにも参加でき、知己を得たこと大変嬉しく思っております。

最後に、現在の大学は、これまでの大学院重点化、大綱化、改組、法人化、移転、国際化に加え、さらなる改革が求められています。経験とともに歴史に学んで、よりよい未来を作るための大学となるようお願いします。長年にわたり素晴らしい学生と環境で教育研究ができたことに対し厚く御礼申し上げます。ありがとうございました。

(名誉教授 元社会基盤工学専攻)